サマーズ氏、シリコンバレー銀行破綻後も利上げ継続を訴える

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、シリコンバレー銀行の破綻とアメリカの金融政策について語っている。

シリコンバレー銀行破綻と利上げ

長らく続く物価高騰を抑制するため、Fed(連邦準備制度)による金融引き締めが続いており、それがシリコンバレー銀行破綻の原因になったことを以下の記事で説明した。

米国時間22日にはFedは次の利上げに関する決定を下すが、シリコンバレー銀行破綻の後、今後の利上げ動向についての市場の見解は大きく揺れている。

市場は元々前回の倍の利上げ幅となる0.5%利上げの可能性も織り込んでいたのだが、シリコンバレー銀行破綻後にはまずその可能性が消えて利上げなしの可能性まで織り込まれ始めた。

しかしその後ECB(欧州中央銀行)のクリスティーヌ・ラガルド総裁がクレディスイス問題など欧州内の銀行危機にもかかわらず0.5%利上げを決定すると、アメリカでも利上げなしの織り込みが少なくなり、現在では62%の確率で0.25%の利上げ、38%の確率で利上げなしとの織り込みになっている。

サマーズ氏はまずラガルド氏の利上げ断行について次のように述べている。

ラガルド女史は素晴らしかった。

彼女は金融システムに問題がある時にでも必要なインフレ抑制政策を遂行できることを示した。

また、インフレと金融システムの安定という2つの問題に対しては別々の方法で対応でき、インフレの問題を犠牲にしなくて済むということを示した。

そしてサマーズ氏のこの見解は当然ながらアメリカの利上げについても同じである。サマーズ氏は次のように続ける。

多くの意味でこれがFedの手本になることを願う。

次の会合ではFedが0.25%利上げを出来れば良いと思う。

利上げは銀行問題を加速しないのか?

だが考えてほしい。そもそもこの銀行問題を引き起こしたのはインフレ退治のための利上げであり、もっと詳しく言えば以下の記事で説明したようにマネーサプライの減少という金融引き締めの目的自体が銀行の預金を干上がらせている。

だから利上げをすることはインフレを抑えると同時に銀行危機を悪化させることであり、利下げをすることはインフレを悪化させると同時に銀行問題を和らげることである。

しかしそれでもサマーズ氏は利上げを推奨する。そして利上げをしなければ物価と銀行システム両方にとって悪い結果になると主張する。彼は次のように述べている。

もしFedが怖気づけば、人々も怖気づくことになるだろう。だから利上げをしなければインフレ期待を悪化させ、かつ経済を弱体化させる可能性がある。

だがこの理屈は厳しいだろう。この理屈では経済がどんな悪い状況にあっても「利上げを止めればFedが怖気づいたことになるから利上げを止めるべきではない」ということになる。

インフレか銀行問題か、どちらかは犠牲になる

結局のところ、インフレ退治を断行し、かつ銀行問題を解決するような選択肢は存在しないのだ。

だがサマーズ氏はそれでも利上げすべきだと言う。それはサマーズ氏の過去の発言と一貫している。彼は去年次のように述べていた。

金融市場の安定に関する懸念を口実に、インフレが長期化することを避けるために必要な金融政策を止めるよう主張するのは間違っている。

サマーズ氏は去年から利上げが経済に大きな問題を引き起こす可能性に言及していた。そしてまさにその状況が起こったわけだ。

だが実際に起こってしまった今、銀行危機など無視して利上げすべきだと言うと過激になる。だから言い方を変えているだけだ。サマーズ氏は銀行問題よりインフレ退治を取るべきだと言っているのだ。

何故ならば、インフレを悪化させると後で更に酷い問題になって帰ってくるからだ。1970年代の物価高騰時代には、インフレ退治を10年も後回しにし続けたために最終的には金利を20%まで上げる羽目になった。

インフレは今退治して酷い目に遭うか、後で退治してもっと酷い目に遭うか、どちらかである。

もう何度も言っているが、アメリカ経済は詰んでいる。インフレ政策でインフレになった時点で詰んでいるのである。

銀行を助けて物価高騰かインフレを退治して株価暴落か、どちらかしかないだろう。