5月米国雇用統計はスタグフレーションへの満額回答

さて、今月も最新の米国雇用統計が発表されたので解説してゆく。

遂に大台に到達した失業率

結局、アメリカ経済は強いのか、弱いのか。景気後退に向かっているのか、インフレ再加速に向かっているのか?

専門家でも意見の分かれているアメリカ経済の先行きを真っ先に教えてくれるのが、毎月初めに公開される雇用統計である。

さて、まずは失業率だが、5月の失業率は4.0%となり、前月の3.9%から上昇した。

遂に大台の4%に到達したことになる。

失業率上昇は景気後退が近いサインである。ではやはりアメリカ経済は減速しているのだろうか。インフレ再加速よりも景気減速、金利低下がシナリオなのだろうか。

もしそうであれば、この雇用統計を受けて金利は下がったはずである。アメリカの長期金利は次のように推移している。

急反発している。

失業率と真逆の平均時給

何故なのか? その理由は平均時給にある。

平均時給は前月比年率で4.9%の上昇となり、前月の2.8%から加速した。

平均時給は前月までは減速していたように見えていたのだが、今回は加速している。

雇用統計後の金利の動きは明らかに平均時給の伸びの加速を受けたものである。平均時給は特にサービス業などにとって主なコストなので、コストである平均時給が上がれば、企業はサービスの価格を維持するのが難しくなる。

だから平均時給はインフレに密接にかかわる数字なのである。サービスのインフレはそう簡単には収まりそうにない。

結論

ということで、今回の雇用統計は失業率と平均時給がまったく反対に動いたデータとなっている。

失業率が上昇しているのはアメリカ経済が景気後退に近づいたサインである。Fed(連邦準備制度)が急激な利上げを行なった後、アメリカ経済はよく耐えてきたが、失業率の上昇を見ると投資家はそろそろ景気後退を視野に入れ始めた方が良さそうだ。

以下の記事で検証したように、景気後退が来れば株価へのダメージは避けられないからである。

一方で、これはもうずっと言っていることだが、インフレがそう簡単には収まりそうにないという事実が平均時給に表れている。平均時給はそれでも2021年以降長期的に右肩下がりのグラフになってはいるが、そう簡単には減速してくれないということがこれまで雇用統計で何度も明らかになってきたことである。

景気後退は来そうだがインフレは経済成長ほどは減速しそうにない。それはまさにインフレと景気後退が同時に来るスタグフレーションの兆候である。

中央銀行は緩和して経済成長を支え、インフレを再燃させてしまうのか、緩和せずに景気後退を受け入れるしかないのか。選択の時が迫っていると言える。