パナマ文書を盗んだ疑いでモサック・フォンセカのプログラマが逮捕

パナマ文書流出問題の渦中にあるパナマの法律事務所、モサック・フォンセカから機密情報を持ちだした疑いで、モサック・フォンセカのジュネーブ支店で働いていたIT技術者が逮捕された。ガーディアン紙(原文英語)などが報じている。

パナマ文書問題では、オフショア企業などの登記を担当していたモサック・フォンセカの顧客情報が流出し話題になったものの、データがどのように盗まれたのかについてはこれまで明らかにされておらず、今回の従業員の逮捕はそれを調査する上での初めての大きな進展であると言える。

John Doe本人か?

今回のパナマ文書問題は、John Doeを名乗る匿名の人物が南ドイツ新聞の記者にチャットでコンタクトを取り、機密文書をインターネット経由で提供したことに始まる。今回の報道ではこの逮捕されたプログラマがJohn Doe本人かどうかが話題になっているが、表に出ている情報は限られている。

先ず、南ドイツ新聞はそれを否定している。ガーディアン紙に対して言うところによれば、「わたしたちの情報によれば、この人物はJohn Doeではない」そうだが、しかし南ドイツ新聞がJohn Doeを庇うのは当然だろう。逮捕された従業員本人も容疑を否認しているという。

しかしこのニュースで重要なのは、外部からのハッキングだと思われてた情報流出が、内部の人間によるものである可能性を示唆したところにある。これは個人的な見解だが、流出が内部からのものであれば、パナマ文書流出は個人的な犯行ではなく、組織的なものである可能性が高い。

誰がデータを盗んだのか?

データを盗んだ犯人については、パナマ文書問題について報じた記事で、単独犯ではない可能性が高いと述べたが、今回のニュースは少なからずそれを裏付けるものであると思う。以下の文章を思い出してほしい。

これは推測でしかないが、ハッカーの個人的行動であれ、何らかの組織的犯行であれ、このハッキングは単独犯によるものではないと考えている。ITと金融にそれぞれ詳しい人物がともに在籍したグループがあったと考えるべきだろう。

逮捕されたプログラマが流出に関係していたのであれば、単独犯である可能性は低い。流出で名前の上がった中国政府など、世界中の政治関係者などを敵に回して、個人が命がけでそのようなことをするメリットが薄いからである。

法律事務所で普通に働いているプログラマがそのようなことをするとすれば、流出に対して何者かから何らかの莫大な報酬が提示されたか、あるいは逆に脅されていたか、そもそも流出を目論んだグループの一員であったかのどれかだろう。そうでなければそのような多大なリスクを取るつじつまがあわない。

黒幕は誰か?

だとすれば、問題は誰が流出を望んだかということである。

何らかのグループが存在して、そのグループがパナマ文書を流出させ、イギリスのオフショアビジネスや中国政府およびロシア政府などにダメージを与えようとすれば、やり方は色々ある。法律事務所で働くプログラマを何らかの餌で買収するのも一つであるし、あるいは協力者をプログラマとして入社させ、内部から書類を盗ませるやり方もあるだろう。

もはや戦時中の国家による諜報戦の領域だが、しかし表に出てこないだけで、そのようなことは今でも日常茶飯事なのである。あっさり逮捕されたところから見れば、この従業員はただ買収されただけの諜報の素人である可能性が高いが、ただの個人の犯行ということはかなり考えづらいだろう。

パナマ文書の流出でどの国が一番利益を受けるのかということは、以下の記事で詳しく議論したが、それはその国が黒幕であるという証拠にはならない。しかし今回の件が示唆するように、表立って報道されている政治家の汚職などでは遠く及ばないようなえげつない世界が、様々な利権の裏には存在しているのである。