世界同時株安はまだ下落の余地がある

2月の初めよりアメリカ初の世界同時株安が続いている。米国株は高値から10%ほど急落し、日経平均など他の国の株価指数もほとんどが下落となっている。

株式投資家にとっての関心事は、当然ながら今後の株式市場の動向ということになる。明日や明後日の株価を正確に予想することは出来ないが、中期的な予想についてはある程度の道筋を示すことが出来るだろう。以下に説明したい。

株式市場と長期金利

株安の原因については、何度も言っている通りアメリカの長期金利の上昇である。国債の金利が上がったために、投資家がリスクの高い株式に投資するのではなく単に国債に投資していれば十分な金利収入が得られると判断したためで、株式市場から債券市場に資金が流出した。このリスクシナリオについてはここでは昨年から何度も議論している。

アメリカではFed(連邦準備制度)が利上げとマネタリーベース縮小という強力な金融引き締めを続けており、金融引き締めとは市場から資金を吸い上げるという意味である。結果として長期金利が上がり、株式市場が下落したということである。

しかし、世界最大の経済大国であるアメリカの中央銀行が資金を引き上げる状況は、アメリカだけではなく世界中の市場に影響を及ぼす。アメリカが資金を引き上げたからといって、必ずアメリカの株式市場から資金が出ていくわけではないのである。そしてアメリカの株式市場から資金が出ていかなければ、日経平均もまずまずの結果になるかもしれない。その点は議論が必要である。

したがって、投資家にとっての問題は以下の2点に集約される。

  1. 金融引き締めは続くのか?
  2. 金融引き締めが続くとすれば、世界の金融市場の中で特にどの市場から資金が流出するのか?

この記事ではこの2点について議論する。

株安で金融引き締めは止まるのか?

先ず、今多くの投資家が考えていることは、株式市場が動揺していることでFedが利上げを中止するか、回数を減らすのではないかということである。そうすれば長期金利も低下し、株安の原因が取り除かれると考える投資家は多いだろう。

事実、市場では2018年に4回の利上げを予想する投資家の数が減った。アメリカの金利先物市場を見れば市場の織り込む今年の利上げ回数を計算することが出来るが、年末までの利上げ回数のオッズは次のようになっている。数字は確率である。

  • 1回: 16.9%
  • 2回: 34.8%
  • 3回: 30.6%
  • 4回: 12.5%

今年の利上げ回数は2回となる確率が最も高くなっている。少し前までは3回が一番多く、4回の確率も低くはなかったが、株安によって市場の予想する利上げ回数が少し減ったことになる。

では、Fedは本当に株安によって利上げを思いとどまるだろうか? 現時点における筆者の予想は、株式市場の動向は利上げに影響を与えないというものである。理由は米国株のチャートにある。

よく考えて欲しいのだが、高値から見れば10%近く下落しているものの、年始から見れば僅かな下落でしかない。しかも去年の11月の高値に近い水準である。これでFedが利上げを思いとどまらなければならないならば、そもそも利上げなど出来ないのである。ハト派のFedのメンバーでさえ、理由は株安ではないだろう。

更に言えば、Fedが本来注視するのは株価ではなく、実体経済である。そしてアメリカの実体経済はかなり堅調に推移している。

実質経済成長率は2.50%(前年同期比)である。

長期金利の上昇は株式市場だけではなく住宅ローン金利の上昇などを通じて実体経済にも影響を及ぼすため、Fedが長期金利の上昇を理由に利上げを止めるとすれば、経済成長とインフレが金利高によって減速する場合である。したがって投資家はそのシナリオも考えなければならない。

しかし、長期金利が実体経済に影響を及ぼすには時間がかかる。現在の長期金利2.8%でも悪影響はあるだろうが、半年ほど時間をかけて緩やかに成長を減速させてゆくだけだろう。アメリカの実体経済については、GDPの内訳分析を読んでもらえれば一番分かりやすい。

つまり、Fedが現時点で実体経済を理由に利上げを止めることはないということである。

結論

したがって、結論としては現在の株安を理由に金融引き締めが止まることはなく、利上げによって短期金利が押し上げられれば、長期金利も上がってゆくだろう。金利については既に書いてあるので、以下の記事を参考にしてほしい。世界同時株安より事前に書いた記事だが、状況は何も変わっていないので予想がそのまま通用する。

では、長期金利は何処まで上がるのか? 現在のアメリカ経済の強さを考えれば、実体経済に致命的なダメージを与える長期金利の水準は3%強といったところだろう。現在、長期金利は2.85%なので、まだ上昇余地があるということである。

したがって、もし長期金利の上昇が株式市場にとって問題となるのであれば、長期金利の上昇は続くので、株式市場がまだ荒れる余地があるということになる。短期的にリバウンドするかどうかは問題ではないし、それが問題とならないようにポートフォリオを組まなければならない。

次の問いは「金融引き締めが続くとすれば、世界の金融市場の中で特にどの市場から資金が流出するのか?」ということになるが、既に長くなってしまったので次の記事で議論したい。

ただ、株式の買い方が主張できる唯一のシナリオは、「金利は上がるが、株式市場は金利高に耐えて上昇する」というものであり、「金利は下がるので株式市場は問題ない」という主張は難しいだろう。上で議論した通り、金利が下がる要素が何も無いからである。