引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏の、米国商工会議所によるインタビューである。
今回はアメリカの財政問題について語っている部分を紹介したい。
財政赤字と米国債の下落
金融市場ではアメリカの財政赤字の問題が話題となっている。コロナ後の金利上昇以来、アメリカの財政赤字の半分ほどが米国債の利払いとなっており、米国政府は米国債の利払いを新たな米国再発行で賄っているが、これは文字通りねずみ算式に国債が増える図式である。
だから機関投資家たちは去年から米国債の急落を警告していた。そしてそれは最悪のタイミングで起こった。4月の株安の最中、ドルと米国債が株価に連動して下落し始めた。
財政赤字の削減
米国債の急落はトランプ政権の関税延期によって今のところ収まっているが、米国債が大量に発行される状況自体がどうにかなったわけではない。
サマーズ氏は次のように述べている。
債務は積み上がっている。それはつまり利払いが増えるということだ。それを支払わなければならないから、債務は問題を引き起こす。
結局、問題を根本的に解決するためには財政赤字を減らさなければならない。
サマーズ氏は次のように続けている。
債務の支払いをまともな方法でやろうとすれば、税収を増やし、政府支出を削減する方法を見つけなければならない。
だが財政赤字がGDPのおよそ7%で、米国債の利払いがおよそ4%だから、利払い以外の収支をプラスマイナスゼロにしても財政赤字は4%になるということである。
つまり、アメリカは国債の利払いと国債の下落リスクによって緊縮財政を強いられている。スコット・ベッセント財務長官は財政赤字を7%から3%まで下げることを目標に掲げているが、政府の消費や投資はGDPの一部であるため、これは実質的にGDPを4%下げることを目標にするようなものだとジェフリー・ガンドラック氏は指摘していた。
当たり前だが、これは米国株にとって大きなマイナスである。
財政赤字削減は可能か
だがその前に、そもそも赤字を削減することは可能なのかという問題がある。サマーズ氏は次のように言っている。
政府支出を削減することは多くの人が思っているよりも難しい。
実業界の人々は政府をまるで企業のように、いつでもベルトを締めてコストを締め出すことが出来るかのように考えがちだが、現実には例えばDOGE(政府効率化省)は政府職員の給与など政府の総支出の極一部に過ぎないという現実に直面している。
イーロン・マスク氏はDOGEで米国政府の経費削減をしようとした。それで大量の政府職員が解雇され、公共事業を打ち切られたコンサル会社の株価が半分になりはした。
だが削減できた金額はそれほど多くない。ベッセント財務長官はマスク氏を責めていたが、莫大な政府支出の最大の原因に手を付けない限り、そもそも削減は困難だろう。
しかもトランプ政権はその後減税法案を通さざるを得なくなった。支出削減に尽力してきたマスク氏はTwitterで次のようにぶちまけている。
申し訳ないがもう耐えられない。
この巨大で途方もなく肥え太った支出法案は、唾棄すべき最悪のものだ。
賛成票を投じた議員は恥を知れ、あなたがたは自分が間違ったことをしていると知っていた。知っていたんだ。
そして支出の最大の原因はいまだに放置されている。サマーズ氏は次のように言っている。
支出を削減するといっても、そこにほとんど支出はない。そして年金に手を付けることは、政治的に極めて困難だ。
結論
だがまだ諦めるには早い。財政赤字が解決できないことを嘆く人には朗報がある。ガンドラック氏はアメリカで年金が近い将来に削減されることを予想しているからである。
ガンドラック氏は老人たちが逃げ切れないことを予想している。
それで財政赤字の問題は多少は解決されるかもしれないが、年金を減らされた引退後の人々は生活を切り詰め、アメリカ経済の消費の重しとなってゆくだろう。
あるいは人々は年金を諦めず、財政赤字は解決されずに米国債は下落、金利は上昇してゆくかもしれない。サマーズ氏は高金利の継続を予想している。
あるいはその両方かもしれない。いずれにせよ、この状況こそがBridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している覇権国家アメリカの長期的衰退なのである。

世界秩序の変化に対処するための原則