引き続き、Tudor Investment創業者のポール・チューダー・ジョーンズ氏のInvest Like The Bestによるインタビューである。
今回はドル円相場について語っている箇所を紹介したい。
日本円は過小評価されている
前回の記事でジョーンズ氏は、コロナ後の現金給付の直後に物価高騰に賭けるトレードなど、確信が持てる相場だけに「大振りの一撃」を打ち込めばトレーダーとして成功すると説明していた。
そして更にジョーンズ氏は、2026年の相場で「大振りの一撃」となる投資シナリオについて次のように述べている。
今、実りそうな「大振りの一撃」はドル円だ。日本円は大幅に過小評価されている。もう長らくそうなっている。
日本人からすれば意外な意見だろう。日本円はアベノミクス以来の量的緩和によって徹底的に安くされており、勿論量的緩和が撤回され、金融引き締めに向かうのであれば円高になるだろうが、黒田元総裁の後始末を任せられた植田総裁も金融政策正常化に苦労している。
長年金融緩和に慣れすぎた相場には、少しのショックでも大きく影響を与えてしまうからである。実際、日銀はほんの少ししか利上げしていないのに、30年物日本国債の金利は上昇が止まらない。

そして、利上げしているにもかかわらず、日本円は下落が止まっていない。ドル円を見れば分かるように、円はドル相手でもドル高円安がなかなか止まらない。だがそもそも今年の為替相場はドルも世界的に見ればかなり弱い通貨なのである。
日本円はそのドルよりも弱い。だが、ジョーンズ氏はその日本円が急上昇するシナリオを予想している。
円高になるシナリオ
ジョーンズ氏はその円がどうして円高になると考えているのだろうか? ジョーンズ氏は次のように続けている。
何がきっかけになるか? 良い質問だ。きっかけは、この新しい首相だ。彼女はロナルド・レーガンやマーガレット・サッチャーや2期目のドナルド・トランプになれるすべての資質を備えている。
こうしたケースでその国の通貨がどうなったか見てみると良い。速やかに10%は上がった。
ジョーンズ氏は、金利上昇が円高に繋がると考えているようである。
確かに、1980年代のレーガノミクスにおいてはドルは上昇した。レーガン大統領は、財政赤字を抑えたわけではなかった。アメリカの財政状況を改善することによってではなく、むしろ財政赤字を増やすことによって、高金利をドル高に繋げたのである。
トランプ政権もそうだろう。むしろ1期目が当てはまるのではないかと思うが、コロナ後に多額の現金給付をしたにもかかわらず、金利上昇によってドルはむしろ上がったのである。
だからジョーンズ氏は、高市首相の財政を顧みない政策が、むしろ円高に繋がると考えているのである。
円高になる背景
ジョーンズ氏は更に、円高になりやすい背景を次のように説明している。
日本には4.5兆ドルの対外純資産がある。60%はアメリカの資産だ。そしてほとんどが為替ヘッジされていない。日本は莫大なドル資産を持っている。
日本は国全体としては債権国である。つまり、海外から借金をしているわけではなく、むしろ海外にお金を貸し、お金を投資している。
つまり、日本国民は米国債などの大量のドル資産を持っている。ジョーンズ氏は、この状況がもし急な円高でひっくり返ればどうなるかと言っているのである。
円は価値が暴落すると思ってドルを買っている人々が、もし急激な円高に直面したら? そうした人々がドルを売って円を買うならば、その円高は更に急激なものになるとジョーンズ氏は予想している。
ジョーンズ氏の見方は正しいか
ジョーンズ氏はそこまで付け加えた上で、高市氏について次のように述べている。
そして日本には突如この50年来始めてのダイナミックなリーダーが現れた。彼女の「日本ファースト」は起業家精神あふれるやり方で日本経済を変えてゆくだろう。
日本円という過小評価され、投資家から見捨てられている資産がある。誰もが円が上がるはずがないと思っている。そしてこの絶好の機会が来る。
海外の投資家と話していてたまに思うことだが、彼らは日本のことをかなり誤解する。高市氏と起業家精神は、実際には何の関係もないだろう。日本株が上昇を始めた時も、海外の投資家は「日本経済には大きな変化が起こっている」とか何とか言っていた。日本人の眼から見ればそんなものは何も存在していない。単に金融緩和が市場が思ったよりも長引いている(つまり日本株の方が日本円よりもましだ)というだけのことである。トルコと同じである。
ジョーンズ氏の金利高・円高シナリオについて1つ言いたいのは、レーガン大統領は財政政策を緩和した一方で、金融政策は引き締めたということである。
レーガン大統領は1970年代の物価高騰の時代の終わりに大統領となった人物で、多額の軍事費を計上し財政赤字を悪化させた一方で、当時どうしようもなくなっていたインフレを退治するためにポール・ボルカー議長の過激な金融引き締め政策を許容した。
その結果ドルが上がったのである。
結論
しかし高市氏に過激な金融引き締めを許容するようなところはまったく見られない。それはレーガン氏と高市氏のあまりに大きな違いである。
また、更に大きな違いは、日本円はドルとは違って基軸通貨ではないということである。基軸通貨ではない国が、インフレになっているにもかかわらず緩和政策を続けた場合どうなるか。イギリスがコロナ禍の最中にそれを実際に試しており、結果は英国株とポンドと英国債のトリプル安で終わっている。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏などは、日本がアメリカのようになるのではなく、むしろアメリカが日本のようになることを新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)において予想している。
アメリカも債務問題を金融緩和によって解決せざるを得なくなり、ドルが下落してゆくというシナリオである。
ダリオ氏とジョーンズ氏、どちらの予想が当たるのか。円はどうなるのか。ダリオ氏の新著には、日本の事例も(政府債務の処理に失敗した場合の事例として)1章まるまる割かれて解説されている。日本語版はないが、英語が読める人はそちらも参考にしてもらいたい。
