世界最大のヘッジファンド: 紙幣印刷で株式の実質リターンがマイナスになる

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の5月29日のインタビューから量的緩和バブルの終着地点について語った部分を紹介したい。

コロナ後の経済と量的緩和

コロナ以後、世界経済には大きな穴が空き、多くの国が政府債務を増やして景気刺激を行うことで対応しようとした。

その借金の額が膨大になったのがアメリカである。アメリカでは30万円を超える現金給付が行われた上に、失業保険の大幅拡充まで行われ、一部の労働者は働かずに失業保険を受け取ることを希望していると債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は指摘している。

結果としてアメリカでは大量の借金上乗せが必要となり、大量の国債が刷られた。そして今後も同じように景気刺激を続けなければ株式市場も実体経済も持たないだろう。

ダリオ氏は次のように指摘している。

需要と供給の問題がある。これから国の予算がどうなるかを考えれば、大量の現金、大量の借金が必要となることは明らかだ。

中央銀行が大量の紙幣を刷り、それを政府がどんどん使ってゆく。しかしこれまで日本とアメリカの経済政策が証明してきた通り、そのお金は金融市場には行くが国民には届かない。ダリオ氏は次のように続ける。

株式が上がるだろう。株式、ゴールド、ビットコイン、不動産、すべてが上がることになる。ドルの価値が暴落するからだ。

一般国民は貧しくなってゆくが、投資家は逃げ切れるのだろうか? しかし金融業界の人間ならば痛感しているだろうが、金利が10%の世界と金利がマイナスの世界では、ヘッジファンドであってもリターンは縮小されてゆく。何故か? ダリオ氏はこう説明する。

資産価格が上昇するたび、そこから将来得られるリターンは低下する。どの資産でも債券と同じだ。そしてそれは最終的に国債の金利に近づき、その資産を買うインセンティブがなくなる。

実際に、例えば配当の多い銘柄を買っている投資家は、低金利の状況下において配当率も以前ほどではなくなっていることを感じているだろう。すべては金利に連動するからである。

量的緩和の行く末

しかし問題はそれだけではない。株式のリターンが少なくなり、それは何処まで行き着いてしまうのだろうか? ダリオ氏は次のように続ける。

ここで問題が生じる。この状況で金融引き締めを行うことは非常に難しい。すべての資産が金利に対して敏感に反応するようになっているからだ。すべての資産が暴落してしまう。

そして中央銀行はますます紙幣を印刷しなければならなくなる。そうすれば1970年代に起こったように、株式や他の資産の実質リターンがマイナスとなる。このパターンは歴史上何度も何度も起こっている。

ダリオ氏は興味深いことに株式の実質リターンがマイナスになると言っている。これでは株式投資家も助からないことになってしまう。

しかしこれは意外なことではない。何故ならば1971年のニクソンショックからインフレが収まるまでの10年間、米国株の実質リターン(株価を消費者物価指数で割ったもの)は次のようになっているからである。

これが物価高騰時における株式の本当のリターンである。米国株のリターンが10年間マイナスだということが今の投資家に信じられるだろうか?

勿論、名目で見ればリターンは良くなる。しかしアメリカ人にとっては投資のリターンでものを買えるわけでもなく、円建てで考えなければならない日本の投資家にとっては、インフレ時に米国株に投資するとドル暴落で結局こういうリターンになるのである。

国民の悲劇は株のリターンがマイナスになることだけだろうか。ダリオ氏によれば、それだけではない。

お金が必要だ。だから紙幣を印刷する。お金が必要だ。だから税金が上がってゆく。これがトレンドを生んでゆく。

日本ではインフレにならないから日本人は問題を避けられているのだろうか? しかし日本の税率はアメリカとは比べ物にならない。所得税と社会保険と消費税を足し合わせた場合、大半の給与所得者は収入の半分以上を税金その他で持っていかれている。そのお金は容赦なく東京オリンピックに流れてゆく。日本人が自分で選んだ道である。

結論

今回の論考は日本の投資家にとって米国株投資を考え直さなければならないものとなったのではないか。

こうした状況下では最終的には株式よりも金属や穀物などのコモディティが上がるだろう。

ではコモディティを買えば投資家は紙幣印刷の弊害を避けられるのだろうか? 実はコモディティさえも買えなくなる可能性がある。ダリオ氏はこう付け加えている。

その次には何が起こるだろうか?

資本統制があるかもしれない。資金は何処かに行きたい。資金は現金以外のほとんどすべてのものに流れてゆく。

実際、過去にはアメリカ政府はゴールドの保有を国民に禁じたことがある。

政府が自分の紙幣印刷の責任を国民に押し付けるためには何でもありである。経済学者ハイエク氏がどれほど慧眼だったかを思い知らされる。