タリバンのアフガニスタン早期制圧に見るアメリカの帝国主義

8月15日、アフガニスタンの武装勢力タリバンは首都カブールを占拠した。主要な都市をすべて支配下に収めた後の首都制圧によってタリバンによるアフガニスタン支配が確定したものと思われる。

タリバンのアフガニスタン制圧

ニュースを聞いた多くの人が疑問に思っているだろう。アフガニスタン政府は何故これほど簡単に諦めたのか? アフガニスタン軍はほとんど戦わずに逃げ去り、首都カブールも無血開城となった。

状況を理解するためには少し前から話を始めなければならない。事の発端は4月にアメリカのバイデン大統領が米軍のアフガニスタン撤退を決定したことである。

撤退は9月までの期限で徐々に行われたが、米軍が撤退するにつれてタリバンは徐々に勢力を拡大していった。

最初に制圧された州都は8月7日に落とされたニームルーズ州のザランジュだが、ザランジュは無抵抗で降伏したという。同じ日にジョウズジャーン州、翌8日にクンドゥーズ州とサーレポル州、9日にはタハール州とサマンガーン州と立て続けに州都が落とされ、12日にはアメリカが首都カブールにある大使館員の退避を開始すると発表した。そして15日のタリバンによるカブール掌握で、これに対してもアフガニスタン軍は抵抗せず明け渡した。大統領だったアシュラフ・ガニー氏は何処かに逃亡したとされるが、逃亡先は明らかになっていない。

このように、アフガニスタン軍はタリバンの攻勢に対して抵抗らしい抵抗をしなかった。そもそも7月5日には政府軍の兵士1,000人以上が隣国タジキスタンに逃亡する事件が起きており、政府軍に戦う意志があるのかどうかは元々疑問視されていた。

アフガニスタン政府軍

物量だけ見ればアフガニスタン軍はタリバンを圧倒していたはずである。多くとも10万人と言われるタリバン兵に対しアフガニスタン軍は公式発表では30万人であり、装備もアメリカなどから最新のものが与えられており、タリバンより遥かに恵まれていた。

にもかかわらずアフガニスタン軍はほとんど戦わずに敗走している。勘の良い読者ならば何かがおかしいと思っただろうが、その疑問に答えてくれる報道はほとんど出ていない。

まず人数だが、これは幽霊兵士と呼ばれる実際には存在しない兵士の人数が多数含まれていると言われる。何故存在しないのかと言えば汚職のせいである。上司が部下の人数を水増しして報告し、幽霊兵士の分の給料を横領しているのである。

「だからアフガニスタン軍は数字よりも強くなかった」というのを敗因だと見なすならば、それは本質が見えていない。そもそも何故アフガニスタンの兵士らは汚職ばかりしていたのかである。そして実際にアフガニスタンの都市にタリバンが迫った時、彼らの多くは戦わずに逃げ出した。

これまで何故逃げ出さなくても良かったのかと言えば、アメリカなど多国籍軍の空爆が代わりに戦ってくれていたからである。その間は自分で戦闘を行わなくともアフガニスタン政府の兵士にも政治家にも給料が支払われた。

彼らは自分では状況をどうにかするつもりはなかったが、アメリカのお陰で給料が支払われる役職に就けている間は文句も言わずその役職に就いていた。そしてその援助がなくなれば国を守る努力もほとんどすることなく、その大半が一目散に逃げ出していった。こういう政府のことを歴史的に何と呼ぶかと言えば、他国による傀儡政権と呼ぶのである。

欧米の中東支配

この状況の不毛さは欧米諸国の中東支配の不毛さの好例である。アメリカは自分たちの干渉がなければそもそも存在していなかったであろうアフガニスタン政府というものを作り出し、自らの空爆で維持していたのである。

しかし実際には彼らの大半は金と武器に集まってきた兵士であり、アフガニスタンという国の政治的展望を持っているわけではない。彼らが維持したいのは国家ではなく給料なのである。

よって彼らは逃亡後、アメリカから与えられた最新鋭の武器を持ったままお金を与えてくれる別のところに行って、再びあまり士気のない兵士となるのだろう。勿論その新しい主人にはタリバンが含まれる。

この状況はイスラム国の時と同じである。イスラム国にも同じようにしてアメリカの兵器が流れている。一部は戦闘中に奪われたのだろうし、一部は兵士ごとイスラム国に吸収されたのだろう。この意味でトランプ前大統領は「イスラム国はオバマが作った」と主張していたが、誰もそれを気に留めることはなかった。

傀儡政権ではないタリバン

こうして元々存在しなかったアフガニスタン政府なるものは瓦解した。新たに政権を作るのはタリバンである。

欧米諸国はタリバンのことをテロ組織と呼んでいる。ほとんど何もせずに逃げ去った元アフガニスタン政府が本当の政府なのであれば、タリバンをテロ組織と呼ぶ彼らの主張も同じ程度確からしいのだろう。

筆者は別に親タリバンではない。タリバンに何の縁もなければ、彼らのやっていることが良いことだとも思わない。しかし欧米が何をやっているかを考えれば、どちらも大して変わらないと考えているだけである。

その観点から言えば、少なくともこれから誕生するタリバン政権は傀儡政権ではない。欧米が好む好まざるに関わらず、彼らの自己利益に基づいた他国への干渉がなければ、アフガニスタンはこうなっていただろうという姿に戻るのである。

結論

アフガニスタンのニュースは大手メディアがこぞって報道しているが、世界のニュースは彼らの言葉から少し離れて観察する必要がある。彼らは自分の都合で組織の呼び方を変える。例えば同じ反政府組織でもシリアでは「民主的な穏健派」と呼ばれているものがアフガニスタンでは「テロ組織」と呼ばれることになる。何が違うかと言えば、前者は欧米にとって都合が良く、後者は悪いということである。

欧米諸国は本当に世界から引っ込めば良いと思う。戦争がやりたいなら中世の頃のように自分たちでやっていれば良いだろう。その意味ではバイデン氏の決断は褒められたものである。しかしアメリカのアフガニスタン撤退は、前政権の頃から決まっていたものだ。バイデン氏はそれを撤回しなかったに過ぎない。前政権のトップは言わずもがな、ドナルド・トランプ氏である。