サマーズ氏: 利上げの終わりが近づいている

これまで長らくインフレを警告し続け、去年からインフレを予想してきた専門家の中でもとりわけ金融引き締めの必要性を強く訴えていたアメリカの元財務長官のラリー・サマーズ氏が、CNNのインタビューでついに利上げの終わりを見通し始めている。

古いホテルの例え

サマーズ氏は経済政策とインフレの関係を説明するために、次のような例えを使っている。

古いホテルに行き、シャワーの温度を上げてから実際にお湯が出るまで長い時間がかかるという経験は誰でもあるだろう。

アメリカでは普通かもしれないが、日本ではあまりないかもしれない。

ちなみにイタリアやイギリスではたまにお湯は永遠に出ない。

サマーズ氏は次のように続ける。

そのような状況では、温度を上げたが何も起こらず、そのまま温度を上げ続けて酷い目に合う。

だからタイムラグのある操縦桿が付いているシステムは、それが何であれコントロールが難しい。

この例えでサマーズ氏は何が言いたいのか? 緩和であれ引き締めであれ、経済政策の効果が物価に現れるまでには大きなタイムラグがあるということである。

だから人々は緩和政策に何の問題もないと思い続けた。だが1971年にニクソン大統領が金本位制を廃止し、ドル紙幣を無尽蔵に刷れるようにしてから、インフレ率が15%に達するまでに10年かかったように、2008年のリーマンショック以後の紙幣印刷がついに限界を超えてインフレをもたらすまでに10年少々かかっただけのことである。

そしてそれは緩和だけではなく、引き締めについても言える。Fed(連邦準備制度)は既に大幅な利上げを行ない、同時に量的緩和を逆回しにする量的引き締めも行なっている。

それで米国株は大きく下落している。だが2022年に行われているこれらの金融引き締めの効果が本当の意味で現れるのは、恐らく来年ということになるだろう。

時間差で現れる引き締めの効果

しかし興味深いのは、これまでインフレの脅威を警告し続け、強力な金融引き締めを促し続けてきたサマーズ氏が、ついに金融引き締めの時間差効果について話し始めたということである。サマーズ氏は次のように述べている。

雇用の最大化を長期的に実現するための最良の方法は、インフレに対して現実的かつ確固たる姿勢で向き合うことだ。

Fedがそこにたどり着くまでにかなりの時間がかかってしまったが、ようやく彼らはその場所にたどり着いていると思う。

去年、インフレを無視して専門家に批判され続けたパウエル氏は、今年から金融引き締めを遂行しており、ようやくサマーズ氏の眼鏡にかなったということだろう。

であれば、問題となるのはこの金融引き締めがいつまで続くかである。サマーズ氏はどう考えているのか? これまでのサマーズ氏ならば強力な引き締めを続けなければならないと言っていたが、その意見がようやく変わってきたようだ。

彼はこう続けている。

パウエル議長はインフレ抑制のために必要なことは何でもするということを明確にしている。

そしてその必要な引き締めの大半はすでに起こった。住宅ローン金利は3%だったが、今では7%まで上がっている。もう少し上がるかもしれないが、ここから更に4%上がるわけでもない。

だから政策調整のほとんどは既に行われた。ここからはその結果が実体経済にどのように現れるかを待って見る必要がある。

一番のタカ派だったサマーズ氏がついに利上げの終わりを考え始めたようである。

利上げは何処まで行くか

利上げは何処まで行くのだろうか。現在アメリカの政策金利のチャートは次のようになっている。政策金利の推移を先に織り込んで動く2年物国債の金利もあわせて表示しよう。

政策金利は現在3%であり、11月と12月のFOMC会合でそれぞれ0.75%の利上げが見込まれているので、年末には4.5%まで上がっていることになる。

この利上げは最終的には何処まで行くのか? サマーズ氏は最近のツイートでそのことについても以下のように語っている。

政策金利先物によれば、市場は政策金利が最終的には5%を超える水準になることを予想している。

より正確に言えば、金利先物市場は2023年の終わりに政策金利が5.25%まで上がることを織り込んでいる。

サマーズ氏はこう続ける。

5%を超えたことは大台に乗ったと言える。そこまで上がる可能性は、そこまで上がらない可能性より高いだろう。だが18ヶ月で4%金利が上がれば、それで既に現在のサイクルにおける利上げのほとんどが終わったと見て良いだろう。

結論

金利については十分に上がったのではないかという声が、ジェフリー・ガンドラック氏など債券の専門家から上がっていた。

その後もサマーズ氏は利上げが必要だと言い続けてきたが、そのサマーズ氏もついにそろそろ利上げの天井だと言い始めたということである。

金融市場はどう変わるか? ここまでは一方的な金融引き締めですべてが下落する弱気相場だった。

だがここから相場は次のステージに移ることになる。その後の戦略については何人かの著名投資家が既に意見を述べているので、そちらも参考にしてもらいたい。