EU首脳会議はユンケル氏を欧州委員長に指名、安定成長協定の柔軟運用も確認

26-27日に開かれたEU首脳会議では、大方の予想通り元ルクセンブルク首相のユンケル氏が欧州委員長として指名された。欧州理事会によって指名された候補は欧州議会によって承認される見通し。また、イタリアのレンツィ首相の主導により、EU加盟国の財政赤字を制限する「安定成長協定」の柔軟な運用が議論され、財政赤字がGDP比で3%以内の国に対して財政再建を猶予する規定の積極利用が確認された。順にこれらの決定をレビューする。

先ず人事だが、ユンケル氏は26対2の賛成多数で指名された。反対した2国はイギリスとハンガリーのみであり、以前よりユンケル氏の就任に強く反対していたイギリスのキャメロン首相は面目を潰された形となる。

興味深いのは、イギリス政府の要人から、「いくつかの国は、私的な議論ではユンケル氏の就任に懸念を示しながら、公の場では支持を表明した」との不満が出ていることである。これはEUの規制に対する各国の不満が確かにあることを示しており、EUの行く末を予測する上で念頭に置いておくべきであろう。

さて、本題は「財政赤字がGDP比で3%未満の国に対して財政再建を猶予する規定」の積極運用である。この規定はこれまで使われたことがなかったが、首脳会談での合意を受け、この規定に当てはまるイタリア(GDP比財政赤字3%)、オランダ(同2.5%)、ルーマニア(2.3%)、フィンランド(2.1%)、スウェーデン(1.1%)などの国々には一時の猶予になろうが、本当に支援が必要なスペイン(7.1%)、ポルトガル(4.9%)、フランス(4.3%)、キプロス(5.4%)、ギリシャ(12.7%)等の国々はこの規定の適用外となる。欧州議会選挙での南欧諸国の不満は、今回の決定には充分に反映されなかったと言えるだろう。これらの国々がEUから成長を勝ち取るには、やや時間がかかりそうだ。

投資戦略としては、先ずスペインの建設会社FCCの短期的な強気ポジションを解消し、長期保有に耐えられる規模のポジションに調整するべきであろう。紹介記事の直後に買った投資家には、それでも利益確定となるはずである。今年の内にまた買い場が来るであろうことも想定しておきたい。

今回の決定の恩恵を受ける国のなかでは、この決定を先導したイタリアに望みがある。イタリアの建設会社はレンツィ首相への期待からもうかなり上がってしまったが、株価指数であるFTSE MIB自体は、他の南欧諸国と比較して割安である。

今後、南欧諸国のEUへの不満は、国内の選挙などを通して財政出動という結果へと繋がってゆくだろう。しかしそれには時間がかかりそうだということが今回の首脳会議で確認された。引き続き、欧州中央銀行の動きも含め、注目してゆきたい。