国債や社債の金利はどう決まるのか? 決定要因と計算式の説明

グローバルマクロ投資入門記事である。前回の記事では債券とは何かということについて説明した。債券の価格と金利の関係については理解してもらえたものと思う。

続くこの記事では、国債や社債などの債券の金利が実際に市場でどのように決まるのか、決定要因や計算式は何かということについて説明してゆきたい。

金利と経済成長率

前回の記事で述べたように、債券とは借金のことであり、債券の利回りとは借金の金利のことである。したがって金利について考えるために、具体的に借金が行われる状況について考えてみたい。

ある人が年間で20%の利益の出る事業を行いたいと考えていると仮定しよう。つまり、100ドルを投資して事業を行えば、翌年には120ドルが得られるということである。

しかし、現在この事業家には元手となる資金がない。そこで、彼は投資家からお金を借りることを考えることになる。今、手元にはお金がないが、100ドル貸してもらえるならば、翌年には事業が成功して120ドルが手に入っているはずなので、借金をしても返せるはずだということである。

ここで問題となるのがその借金の金利である。この事業家はどの程度の金利であればそれを払うことを許容するだろうか?

彼の事業が本当に100ドル投資するごとに120ドルが得られるものであるとすれば、借金のコストが20ドルを超えない限り、彼はお金を借り続けるだろう。

仮に利子が25ドルであれば、100ドルを借りることで翌年には125ドル返済しなければならないことになり、120ドル生み出す彼の事業は赤字になってしまうが、利子が19ドルであれば、119ドルの借金を返しても1ドルの利益が出ることになり、借金をするインセンティブが生まれるからである。したがって、彼がこの行動を続ける限り、借金の金利は長期的には20%に限りなく近づいてゆくことになる。

さて、ここで経済全体のことを考えてもらいたい。ある国の経済成長率が例えば今後5%で推移すると期待されているとすれば、その経済は全体として5%の利益の出る事業を行えるということになる。

一人の事業家を考えたケースと同じように、この経済が合理的に行動するならば、借金の金利が5%を超えない限りは、借金をすることで事業を行い続けるだろう。したがってある国の金利は、長期的には経済成長率(の期待値)に近似してゆく。つまり、以下の式が成り立つということである。

  • 実質金利 = 期待実質経済成長率

金利と物価上昇

一方で、金利に影響を及ぼすものは経済成長率だけではない。そのもう一つの要素がインフレ、つまり物価上昇である。

上の式には「実質」という言葉を付けた。これはインフレを考慮しないということである。ではインフレを考慮すると金利はどうなるのか?

例えば、金利が2%の債券があるとしよう。投資家はこの債券に投資することを検討しているが、その時経済の物価上昇率が4%であればどうか?

投資家は100ドルを債券に投資して翌年には102ドルを得ることが出来るが、その時には物価は4%上昇しており、100ドルで買えたものが104ドル払わなければ買えない状態になっているだろう。これでは債券を投資したにもかかわらず、実質的には2ドル損をしていることになる。

このような状況下では、投資家は債券に投資するよりもむしろ金や原油、不動産などの実物資産を買うことを選ぶだろう。インフレが4%ならば、これらの資産の価格は平均して4%上昇するはずであり、債券の2%よりも得ということになるからである。

したがって、債券の金利は少なくともインフレ分の底上げを受けなければ、投資する投資家を見つけることが出来なくなる。インフレ率が上昇すれば金利も上昇し、インフレ率が下落すれば金利も下落するということである。

前の記事では金利上昇と債券価格の下落、金利低下と債券価格の上昇は同じことであるという話をした。これを踏まえれば、インフレ率上昇は債券安、インフレ率下落は債券高ということにもなる。

金利とリスク

さて、次は債券の金利を決定する最後の要因、つまり債務不履行の可能性である。

債券に投資をするとはつまり誰かにお金を貸すということであり、借金には常に返済されないリスクというものが存在する。いわゆるデフォルト(債務不履行)リスクである。

ここまでの金利の議論ではその可能性を排除して考えてきた。先進国の国債などはデフォルトのリスクが限りなく少ないものと考えられており、上記の議論がほぼそのまま通用する。つまり、金利は理論的にはインフレ率と経済成長率によって決まるということである。

しかし、借金も一企業や一個人に対して貸すような場合には、その借金が返ってこないリスクを考慮しなければならない。企業でも、何年も赤字を出していない優良企業の社債と、破綻寸前の零細企業の社債では、同じ扱いにはならないのである。

一般に、リスクが高ければ高いほど、投資家は高い利回りが得られなければ納得しないため、リスクの高い借り主が発行する債券は金利が高いということになる。いわゆるジャンク債や高利回り債などと呼ばれるものは、破綻が懸念される企業が発行する金利の高い社債のことである。

このように債務者の信用リスクによって金利に上乗せされる分を金融の世界ではリスクプレミアムと呼び、これが最後の金利決定要因である。これまでの議論を纏めると、債券の金利を決定する計算式は以下のようになる。

  • 債券の金利 = 期待物価上昇率 + 期待実質経済成長率 + リスクプレミアム

つまり、金利はインフレと経済成長と借り手の信用の度合いによって決まるということである。

結論

これが金利を考える上での基本的な考え方である。これはあくまで理論的には長期的にそうなるということであり、特に経済成長率と実質金利が等しいという部分は必ずしも実際の経済ではそうならない場合がある。

しかし債券投資家は先ず金利の理論値を考え、それからその他の細かな要因を考えてゆくことになる。だから、この記事で書いたことは債券投資の一番の基本なのである。

株式投資家が株価の上下を予想するように、債券投資家は金利の上下を予想する。そして、この記事を読んだ読者にはお分かりのように、金利を予想するとは、経済成長率やインフレ率を予想するということなのである。

したがって、債券投資はそれ自身、マクロ経済学的な性質を帯びており、一企業の財務諸表を分析する個別株投資などよりも、ヘッジファンドのグローバルマクロ投資に近い部分がある。債券投資について詳しく知ることは、個人投資家の考え方から機関投資家の考え方へと移行する第一歩なのである。