トランプ相場で株価は上昇、では米国の住宅価格は?

2016年11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利して以来、金融市場はトランプ政権の経済政策を期待して好調に推移している。しかしその政策はまだ議会を通ってもいないため、投資家は現在「金融市場が先に反応してから後で政策が実際に行われるまで」の空白の期間に置かれていることになる。この空白の期間の金融市場とアメリカ経済がどうなるかについて、具体的に検討すべき時期だろう。

先行する金融市場、後を追う経済政策

周知の通り、トランプ政権に対する金融市場の反応は、先ずは株高である。以下は米国の株価指数S&P 500のチャートである。

そしてより重要なのは、住宅ローンや自動車ローンの金利に影響する長期金利が上昇したということである。

この動きは両方ともトランプ政権の減税、インフラ投資、規制緩和などの経済政策を評価してのことである。

しかしながら、トランプ政権は現在、共和党の保守派との対立から、議会を説得して政策を通すことに成功しておらず、市場はトランプ氏の政権運営能力をやや心配している。事実、債券投資家のガントラック氏などは、トランプ政権が議会を説得する能力に欠けている場合、これまでの強気相場が振り出しに戻る可能性を指摘している。

しかしトランプ大統領の手腕にかかわらず、金融市場が先に反応し、政策が後に付いてくるという順序はどの政権でも当然のことであり、投資家はその順序に沿って投資を進めなければならない。

そこで、政策が徐々に見えてくると予想される2017年後半までアメリカ経済がどう推移するかを考える必要があるのだが、そのためには様々な経済指標を考える必要がある。大統領選挙後の数ヶ月のデータが出揃った今は、それに相応しい時期と言えるだろう。

トランプ相場における不動産市場

そこで、先ず眺めておきたいのはアメリカの不動産市場である。

先に述べた通り、トランプ相場で米国株は上昇した。一方で、経済成長とインフレを予想した債券市場では長期金利が上昇しており、長期金利の上昇は住宅ローン金利の上昇に繋がるため、消費者がローンを組んで住宅を買うコストが上昇することになる。つまり、住宅が買われにくくなるということである。

では、不動産価格はどうなっただろうか? 長期金利上昇の悪影響を受けているだろうか? 答えは以下のケース・シラー住宅価格指数の上昇率(前年同月比)のグラフを眺めれば分かる。

トランプ氏が勝利した11月から急上昇を開始している。長期金利上昇の悪影響は見る影もない。より長期でチャートを見れば以下のようになる。

長らく横ばいだった上昇率が加速を開始している。

これはどういうことか? 結論から言えば、長期金利の動向よりも米国株上昇のリスクオンの影響を受けたということである。

金融市場は連動する

何度も言うように、投資家は債券や不動産、株式などの様々な資産を比較した上で投資をする。

資産価格が上昇すると何が起こるかと言えば、資産価格あたりの投資リターンが相対的に減少するということである。一株当たり利益が10ドルの株があれば、100ドルで買えば利回りは10%、200ドルで買えば利回りは5%ということである。

この辺りの理屈は上記の記事を参考にしてもらいたい。これは債券の記事だが、不動産も株式も本質的には同じことであり、米国株が上昇するということは、米国株の投資リターンが低くなるということである。

結果、例えば株高で米国株の投資利回りが5%から4%に低下したとすれば、その分だけ投資利回りの変わっていない他の資産、例えば不動産の相対的魅力が増すということになる。

そういう訳で、トランプ相場では株式だけではなく不動産も買われているということである。長期金利上昇の悪影響はまだ出ていない。あるいは、投資家のリスクオンの雰囲気がそれに打ち勝っているのである。

不動産市場が株高と金利上昇のどちらに付くべきかという問題で投資家が迷ったという事実は、例えばアメリカのREIT(不動産投資信託)の値動きを見れば分かる。ニューヨーク証券取引所に上場するAnnaly Capital Management (NYSE:NLY)の株価は11月以後横ばいで推移していたが、2017年に入ってから上昇を始めている。株価の上昇よりも2ヶ月遅れたということである。

この銘柄は不動産そのものではなく、主にモーゲージ(住宅ローン)に投資をする投資信託であるので、長期金利上昇の直接の影響を受けるはずなのだが、市場のムードはリスクオンである。とりあえずはこれがアメリカの不動産市場の現状である。次は個人消費など、GDPに近しい部分を見てゆきたいと思っている。