ガンドラック氏: 過去数十年の上昇相場を前提に今後数十年の投資をしてはいけない

引き続きDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のYahoo! Financeによるインタビューである。今回は、過去数十年の相場を底上げしてきた金融緩和がインフレの発生によって終了するとき、資産価格がどうなるかという話である。

40年続いた低金利相場

2022年に人類がインフレについて騒ぎ始めるまで、先進国の金利はひたすら下がり続けてきた。正確に言えば、金利の天井は1980年だった。アメリカは1970年代の物価高騰を金利を上昇させることで乗り切った後、20%まで上昇した政策金利を40年かけて低下させてきた。

アメリカの政策金利を長期で見ると次のようになっている。

ガンドラック氏は次のように言っている。

2022年までの過去40年間、長期的に見れば金利はひたすら下がり続けた。経済サイクルによっては短期的に上がった時もあったかもしれないが、その時もすぐに下値を更新した。

そしてそれが金融市場にとって何を意味したか? 資産価格上昇である。金利が下がれば預金をしていても利息が少なくなる。少しでも多いリターンを求めて資金が預金から株式などのリスクの高い資産に流れ込む。

金利が下がるたびにこの資金の移動が起きるので、中央銀行は経済にショックが起こって株価が下落するたびに金利を下げてきた。アメリカではリーマンショックで金利がゼロになったので、その後は利下げを紙幣印刷に切り替えて金融緩和を続けてきた。そうやって米国株は40年間、多少の下落相場があっても長期的には上がり続けてきたのである。

これは日本株についても同じことが言える。日本株は1989年のバブル崩壊で金利をゼロまで下げ切ってしまったために株価がそれ以上上がらなくなった。だが2013年にアベノミクスで紙幣印刷が始まると、株価は上昇を再開した。以下は日経平均の長期チャートである。

株式市場はまさに金利に従って動いている。債券も同じである。金利低下は債券の価格上昇を意味しているので、金利が下がる限り株式も債券も上がり続ける。

40年間上がり続けた米国株

日本市場は上記のように紆余曲折あったが、問題は金利低下が始まってから40年間上がり続けている米国株である。アメリカでは金融緩和は2022年まで途切れることがなかったために、米国市場の上昇も40年間長期的には途切れたことがない。だからガンドラック氏は次のように言う。

だから誰も金利低下以外の相場を経験したことがない。

だが幸いにも日本人は金利低下のない相場がどういうものか経験している。上記の日経平均のチャートを見れば明らかである。金融緩和があれば株は上がり、なければ株は上がらない。

金融緩和がないだけならばまだ良い。だがインフレを抑制するためにアメリカは金利を上げることを強いられている。

経験ある投資家は誰もが金融緩和の力を実体験として知っている。緩和が株価や債券価格を押し上げてきた現場で何十年も働いてきたからである。だからこそガンドラック氏は次のように言う。

これまでの低金利という背景が、今のところそうなっているように高金利という背景に置き換えられるとき、今後数十年が過去数十年と同じような相場になるだろうか?

過去の相場を十分に研究した専門家であれば、その答えを既に知っている。

「でも米国株は金融緩和がなくとも実力で上がっていくのではないか」と言う人が居るかもしれない。だがそれはもう既に試した。1970年代、アメリカの物価高騰時代に金利が高騰し、結果として米国株の株価は半分に、インフレ分を差し引いた実質の数字ではほとんど1/3に下がり、その後実質ベースでその下げ幅を取り戻すのには数十年かかっている。

結論

筆者はまず1970年代と同じような下落が株式市場に起きると予想している。

だが問題は、株式市場や債券市場にとって酷い状況が1回の下落で終わるのか、それとも今後数十年がそういう時代になるのかということである。

そして上記のように日本株と米国株の金融緩和のない時代の動きを知っている人間には、その答えはもう分かっている。この下落相場は長丁場になる。だから筆者は株の空売りを2022年の始めから一貫して行わずに利益確定しながら何度も繰り返しているのである。長丁場の間には比較的大きな反発もあるからである。

そうした反発が「株式はやっぱり大丈夫なのではないか」という勘違いを投資家にさせることもある。だが一貫して言えることは、インフレが起きてしまった2022年以降、もう過去40年のような金融緩和を行うことが出来ず、そうした相場における株式と債券の長期のパフォーマンスは酷いものだということである。

だから、例えば銀行や証券会社を利するだけで投資家には何の得にもならないつみたてNISAなどを国民どころか高校生にまで押し付けようとしている金融庁が、過去数十年の株式のパフォーマンスを例に「株価指数に投資して寝ていれば儲かる」という趣旨の完全な出鱈目を広めようとしているとき、あまりに酷い詐欺だと思わずにはいられないのである。それが出鱈目であることは上記の説明で一発で分かるはずだ。

このようなことは筆者やガンドラック氏でなくとも、少しでも金融の知識のある人間なら分かるはずである。

つまり金融庁の人間には金融の知識がない。手数料が高いだけでETFに比べて投資家には何のメリットもない投資信託を、価値あるサービスを提供できない、手数料ビジネスしか生きる道のない銀行業界の利権のために個人投資家に押し付けるための組織なのだから、金融庁ではなく日本投資信託協会にでも名前を変えれば良いのではないか。

彼らは銀行業界や証券業界、それらに支えられている政治家のことを考えているのであって、国民のことを考えているのではない。

大体、40年の緩和相場がちょうど終了する見事なタイミングで国民に株式を押し付けた自民党や金融庁の手腕は天才的である。

何度でも持ち出すが、金融庁のサイトには以下のように書いてある。

詐欺的な投資勧誘等にご注意ください!