トランプ大統領に服従した自動車産業が得る見返りとは

アメリカのトランプ大統領が自国の自動車産業を批判しているのは周知の通りである。大統領は自動車メーカーが安い労働力を求めてメキシコなどアメリカ国外に工場を作り、そこからアメリカへ輸出をすることで、アメリカで利益を上げているにもかかわらず、アメリカから雇用を奪っていると批判していた。

トランプ大統領の批判に反応したFordはいち早くメキシコに工場を建設する計画を廃止し、General Motorsなども結局はアメリカで雇用を増やす計画を発表した。外交というものを理解していない日本のトヨタ自動車はメキシコの工場建設を撤回しないとわざわざ公言してトランプ氏のツイートの的となることを選択したが、そういう面白い選択肢を選んだ企業は稀である。

しかしFordやGeneral Motorsなどの自動車メーカーは単に要求を飲まされるだけなのだろうか? そうではない。トランプ氏は交渉に長けた企業家であり、恫喝がしたかったのではないからである。双方に利益がなければ交渉は上手く行かないということをトランプ氏は知っている。安倍首相とともに行った共同記者会見で、トランプ大統領は自動車産業に言及しているが、それは以下のようなものである(原文英語)。

大統領選挙で勝利して、次期大統領と呼ばれるようになって以来、自動車メーカーなど多くの会社に、アメリカに戻って来いということを言っている。そして多くの企業は実際に帰ってきている。すぐに大きな発表があるだろう。

アメリカは多くの工場を失った。しかしこれらの工場は戻ってくる。ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ノースキャロライナなど、多くの雇用が失われた多くの土地で、雇用は取り戻されることになる。こうした企業はわたしに対してとても良くしてくれた、だから今度はわたしも彼らに良くしようと思う。

大統領選挙で大企業の政治献金や、大企業に味方する大手メディアの一方的な支持を得ていたヒラリー・クリントン氏に勝利するため、トランプ氏は有権者に対して保護貿易という一見不合理な約束をする必要があった。

その経済学的な不合理さは、メディア上でトランプ氏を批判している批評家のようなビジネスの素人よりも、優れた企業家であるトランプ氏が一番良く理解している。しかしそれでも、その不合理な要求を自動車メーカーに頼む必要があったトランプ大統領は、その代わりに対価を用意していたわけである。

自動車メーカーからトランプ大統領への要求

その対価とは何か? Reuters(原文英語)によれば、18の主要自動車メーカーが連名でトランプ大統領に書簡を送り、燃費に関する規制緩和を求めている。議論の的となっている規制とは、オバマ政権が定めた、自動車メーカーは環境に配慮して燃費を一定以上に向上させなければならないとしているものである。

これは当然自動車メーカーにとって負担となるものであり、書簡では企業側は、トランプ大統領のアメリカ経済を成長させる政策と雇用へのコミットメントを讃えた上で、オバマ政権が決定した規制は雇用の減少をもたらすと主張し、「その規制がもたらす結果について偏見なく再評価する」ことを要望している。

工場をアメリカへと戻した見返りがこの規制の撤回ということになるかどうかはまだ決まっていないが、二酸化炭素排出量を制限するパリ協定からの離脱を仄めかしているトランプ大統領には受け入れてもらいやすい要求だと言える。トランプ大統領の発言も考えれば、自動車産業はそれに近い譲歩を得ることが出来るだろう。

いち早く動いたFordの思惑

一つ問題があるとすれば、書簡を連名で提出した18の自動車メーカーには、FordやGeneral Motorsのようにトランプ大統領への譲歩を示したものもあれば、トヨタ自動車や本田技研工業のように譲歩を示していないものもあり、トランプ大統領およびFordなどの立場から言えば、こうした企業も譲歩を示さなければ、この書簡の要望を通す上でフェアではないということになる。

結果的に、協力を拒んだトヨタ自動車などの企業も、遅かれ早かれ何らかの譲歩を示さざるを得なくなるというのがわたしの予想である。そうであれば、無意味に非協力的な姿勢を示した企業は、単純にそれだけ損をするということになる。

トランプ大統領にいち早く協力の姿勢を示し、トランプ氏が「友人」と呼んだFordのビル・フォード会長は恐らくトランプ氏のこういう性格を元々知っており、いずれこういう状況になるのであれば、大統領と揉めることなく早々と交渉に応じてしまった方が得だというように考えたのだろう。一方で、国際情勢を何も理解しない日本のトヨタ自動車は、トランプ氏の発言にただ慌てた結果、墓穴を掘ったということになる。プロのやることではない。

やはり、日本の大企業でまともに外交が出来るのは孫正義氏くらいだということになるのだろう。孫氏はあまり英語が出来ないようだが、それでもやるべきことは知っている。多くの日本人にはそれが足りないのである。