ビル・グロス氏: ECBと日銀の量的緩和が止まれば米国経済はリセッション入り

債券王と呼ばれるビル・グロス氏の相場観について、久々に報じてみようと思う。債券投資家のものとしては最近はガントラック氏のものが興味深かったため、そちらばかり報じていた。彼の「金価格の短期的上昇」予想は見事に当たっている。

今回はJanus Capitalの発行するグロス氏の月間レポート(原文英語)を取り上げたい。

永遠の量的緩和

以前からのここの読者には周知の通り、債券投資家であるグロス氏は低金利に批判的である。以下の記事にグロス氏のマイナス金利への批判を纏めてある。

一方で、グロス氏は金融市場は金融緩和によってかろうじて支えられており、中央銀行の人為的な支えがなければ株式市場も債券市場も崩壊すると予想している。彼は以下のように書いている。

市場のボラティリティを制御可能にするために、そして資産価格の底上げを続けるために、中央銀行は永遠の量的緩和サイクルに足を踏み入れている可能性がある。そうしなければ世界的に金融市場が機能しないからである。

グロス氏はいつものように低金利政策を批判しているが、もう少し具体的に金利の話をしよう。アメリカ大統領選挙以前、アメリカの長期金利(10年物国債の金利)は1.8%程度だったが、市場がトランプ政権の経済政策でインフレと経済成長を織り込もうとしたことから2%半ばまで急騰した。

アメリカの金利上昇には、Fed(連邦準備制度)による量的緩和が既に終了しているという事実も影響している。

しかし、グロス氏はこの上昇後の金利水準も、今なお続いているECB(ヨーロッパ中央銀行)と日銀の量的緩和が間接的に影響を及ぼした結果、低位に抑えられているものであると主張する。

アメリカの10年物国債の金利が2.45%程度の低水準で推移していられるのは、ECBと日銀が毎月1,500億ドルもの量の債券を買っているからであり、金利が0.1%の日本国債と0.45%のドイツ国債から2.45%の米国債へと資金が流れてくるわけである。

こうした金融緩和という麻薬の効果がなければ、債券市場も株式市場も多大な混乱を避けられないだろう。ECBと日銀が量的緩和を止める時、アメリカの長期金利は3.5%まで跳ね上がり、アメリカ経済は景気後退に突入すると推測しても大袈裟ではないだろう。

3.5%というのはマクロ経済学的にはアメリカ経済のGDPを大幅に削り、これまで低金利によって支えられてきた株価水準の底上げ分を取り去ってしまう数字である。

トランプ相場でアメリカの金利は大幅に上がっているが、ガントラック氏は長期金利が3%を超えれば高金利による問題が表面化してくると主張している。

わたしも以下の記事で2.7-3.0%辺りの水準が「臨界点」となると分析した。

細かな数字の違いはあれ、多くの機関投資家がこの辺りの水準を気にしている。グロス氏の言う3.5%はそうした水準をかなり上回るものだが、しかしユーロ圏の量的緩和が無くなれば、アメリカの金利もそうした水準まですぐに上がってゆくことになるだろう。日本国債と米国債の間の連動は微妙だが、米国債とドイツ国債は確実に影響を与え合っている。

結論

要するにすべては金利次第である。トランプ相場についてはこれまで多くのファンドマネージャーの意見と、そしてわたしの意見とをここで共有してきたが、今後金利や株価、ドルの水準、そして金価格などがどういう方向に進んでゆくのかということは、主に以下の論題によって決定されることになる。

  1. トランプ政権の経済政策は実質経済成長率をどれだけ押し上げるか?
  2. トランプ政権の保護貿易は実質経済成長率にどう影響するか?
  3. 高金利による消費の減速、投資の後退は実質経済成長率をどれだけ押し下げるか?
  4. トランプ政権はFedのイエレン議長の後釜にハト派の人物を選ぶのか?

こうしたテーマに対して、ここでは出来るだけ早く回答を与えてきた。

しかしそれでもわたしはトランプ相場にほとんど傍観姿勢を貫いている。プラスの要素とマイナスの要素の明らかに入り交じる相場に投資をするというのは、わたしの相場の鉄則に反しているからである。オプションを使ってレンジの予想で儲けることは出来るが、その程度である。

アベノミクスで日経平均を買っていたような買い一色の状況が現在の相場に存在すれば、投資家はトランプ相場で米国株を買ったりはしないだろう。しかし他に魅力的なものがないからという理由で不十分な論拠をもとに投資をするのは、長期的には損失にしかならない。それがダリオ氏の言う「いつ手を引くべきかをわきまえる」ということである。

われわれはいつ賭けから手を引くべきかをわきまえることによって、自分たちが正しい決断をするオッズを上げることが出来る。

そのダリオ氏は、現在の相場について、「世界の何処にも非常に魅力的な資産クラスは存在しない」と結論している。

わたしの知る限り、機関投資家の意見は今のところ誰のものもそういうものである。一方で現在の相場でも大いに売買している個人投資家もあるだろう。そういう投資家はどういう判断で、どういう市場に投資をしているのだろうか?

わたしはと言えば、読者にも周知の通り、ジム・ロジャーズ氏に同意する。

ロシアの通貨ルーブルはじわりと上昇してきた。以下はドルルーブルのチャートで、下方向がドル安ルーブル高となる。長期的なトレンドとしては当然の方向性である。