トランプ政権: ロシア疑惑対策で「極右」バノン氏復活か

大手メディアに「極右」「影の大統領」などと陰口を叩かれ、トランプ政権のシリア爆撃後は左遷の憂き目に遭っていたスティーブ・バノン氏が、政権の中枢に戻ってくるかもしれない。

トランプ政権はアメリカ民主党と大手メディアの追求する、いわゆる「ロシア疑惑」に長らく悩まされてきた。トランプ政権は発足前からロシア大使のキスリャク氏らに接触してきたと非難されており、この疑惑をめぐって大統領補佐官が辞任するなどの事態になっている。

しかしこのキスリャク大使はそもそも駐米ロシア大使なのだから、アメリカの政治家と接触するのは普通だろう。事実、民主党の政治家も同様に彼に接触しており、民主党が何を非難しているのか明らかではないのだが、しかしアメリカの政治界と大手メディアのロシアアレルギーは止むことがない。

ロシア疑惑の根源、バノン氏

さて、ここからが本題だが、トランプ大統領はこうしたメディアや政敵の非難への対策として、「作戦司令室」を新設するらしい。ロイターなどが報じているが、この新しい部署に参加するのが、娘婿のクシュナー氏のほかに、アメリカの中東への軍事介入に激しく反対して左遷されたバノン氏だというのである。

そもそも、ロシアとの関係正常化を言い始め、アメリカ政治界におけるロシアアレルギーを発生させた根源はバノン氏である。選挙中にトランプ大統領が主張していた「中東への軍事介入にアメリカ人の膨大な血税が使われた」「米国はシリアから手を引くべき」というレトリックは、アメリカ市民のお金はアメリカ市民のために使われるべきというバノン氏の主張をトランプ大統領が借用したものである。

中東から手を引くということは、中東において利害の対立があるロシアとの紛争から手を引くということである。これに癇癪を起こしたのが大手メディアと民主党であり、結果としてトランプ大統領は非難への対応に追われ、政権は混乱し、経済政策は後回しになり、金融市場では一部の投資家はトランプ相場から降り始めている。

このごたごたに決着を付けたのは、トランプ大統領のシリア爆撃である。政権内でシリア介入に反対していたバノン氏は、大統領の親族で、シリアへの攻撃とロシアとの抗争を望むグローバリスト寄りの娘イヴァンカ氏やその夫のクシュナー氏などと対立していたが、トランプ大統領は娘とその夫の要望を聞き入れた。

こうして政権内の権力闘争に敗れたバノン氏は、左遷も同然の扱いを受けていた。トランプ大統領はバノン氏について以下のように述べ、バノン氏の功績を暗に否定した。

スティーブのことは好きだが、彼がわれわれの選挙戦のかなり後半になるまで選挙戦略に関わっていなかったことを思い出してほしい。

こうして反グローバリズムによって選挙に勝利したトランプ政権は、グローバリストのイヴァンカ氏やクシュナー氏に持って行かれたわけである。

反大手メディアのエキスパート、バノン氏

しかし、そのバノン氏が新設される作戦司令室に起用されるという。何故か? それは保守系ネットメディアBreitbartの編集長として大手メディアの偽善を攻撃し続けてきたバノン氏のメディア戦略が、いわゆるロシア疑惑に関して大手メディアと戦う上で必要となったからである。

この「ロシア疑惑」だが、今のところ出てくる情報は「トランプ政権の何人かがロシアの政治関係者と接触していた」というものだけであり、何かロシアとの間に不正があったというものではない。非難している民主党の側にも当然ロシア側とコンタクトを取っている政治家はおり、少なくともわたしには、アメリカ政府がロシアとコンタクトを取ることの何が非難されるべきなのか、理解不能である。

しかしアメリカの大手メディアはそれをまるで鬼の首を取ったかのように報道している。大手メディアの影響力があれば、火のない所に大量の煙を発生させることも容易だということである。

その状況を打開するためには、そもそもそうした煙に味方する政権内のグローバリストに頼っても無意味だということを、トランプ大統領はようやく理解したのだろう。そこでメディアのエキスパート、バノン氏を起用して煙の始末をさせようということである。こうしてトランプ政権に反グローバリズムが復活する。

結論

そもそも、シリア爆撃というグローバリズムに即した政策をトランプ大統領が採用したのは、「娘でなければ付き合っていた」と豪語するトランプ氏の娘イヴァンカ氏への個人的な偏愛の結果に過ぎない。トランプ氏がどれほど娘の言うことを聞くことを望もうとも、その政策はトランプ氏個人の信条とは何の関わりもないものである。

しかし結局、大統領本人と政治的利害が一致しているのは、政権内ではバノン氏の一派であり、グローバリストの親族達ではない。

娘可愛さのあまりに政権内を政敵で固めることの愚かさを、トランプ大統領はようやく理解したのだろう。トランプ氏は今月に入り、Bloombergのインタビュー(原文英語)でバノン氏のことを「国のことを強く思っている非常にまともな男」と呼んでいる。

また、大手メディアがバノン氏をオルト・ライト(新興右翼)と呼ぶことにかけて、バノン氏を「オルト・レフト」と呼び、「真実を知るつもりがあれば、彼は誰よりも自由主義者だということが理解できるはずだ」と述べた。既得権益層から権益を国民に取り戻すというバノン氏の信念への的確な評価だろう。