トランプ次期大統領: アメリカは他国の政権転覆をやめる

アメリカ大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏が外交政策について語っている。オハイオ州シンシナティで開かれた当選後の感謝集会の一幕である。

トランプ氏のシリア政策

トランプ大統領の政策のなかで注目されているものの一つは中東政策である。シリアの混乱とISIS(イスラム国)をどうするかということである。そもそもシリアの情勢をアメリカがどうにかする状況がおかしいのだが、それが現状の「国際社会」である。グローバルな社会である。トランプ氏はこれまでのアメリカの中東介入についてこう述べている。

アメリカは中東に6兆ドルを費やした。そして中東は今、歴史上最悪の状態に置かれている。だがこれもすぐに変わる。

われわれはついに過去の失敗から学び、新しい外交政策を求めてゆく。アメリカは他国の体制や政権を転覆させようと目論むことを止める。6兆ドルだ、6兆ドルが中東で使われた。われわれの目的は地域の安定であり、混沌ではない。

アメリカは巨額の資金を投じてシリアの状況をこれ以上なく悪化させた。トランプ氏は「政権転覆」を止めるとはっきり言っている。シリア介入は政権転覆の企みなのであり、トランプ氏はそれをはっきりと認めている。

アメリカのシリア介入

アメリカはシリアで具体的に何をしたのか? トランプ氏はシリアに関してロシアのプーチン大統領と意気投合していたことを思い出そう。プーチン大統領はシリアの状況について以下のように語っていた。

あなたがた(米国ジャーナリスト)は本当に、シリアで戦っているのが誰か、分かっていないのですか? 彼らのほとんどは傭兵です。彼らが金で雇われているということを理解していますか?

傭兵はどちら側であれ、金をより多く払う側に付きます。米国は傭兵に金を払っています。いくら払っているかもわたしは知っています。彼らは武器を与えられ、戦い、その武器は戦闘が終わった後も返ってくることはありません。

その後、彼らはその武器を持って、もう少し多く給与を払ってくれる組織(訳注:ISISを指す)を見つけ、その組織のために戦います。そしてシリアであれ、イラクであれ、油田を占拠するのです。

以前にも述べたが、少なくともアメリカの武器がISIS(イスラム国)に渡っていることは西側のメディアも報道している事実である。そしてもう一つの事実は、西側諸国はパリやブリュッセルにおける大量殺人の犯人をテロリストと呼んだ一方で、武力を持ってシリア政府を攻撃している勢力を「穏健派」や「反政府勢力」と呼んでいるということである。一体何が違うというのか? 西洋は中東の人間に恨まれて当然の仕打ちをしてきたのである。

ロシアとアメリカ

はっきり宣言しておくが、わたしは別に親ロシアではない。広島と長崎への原爆投下を今でも正当化するアメリカ人も、北方領土の火事場泥棒的略奪を正当化するロシア人も似たようなものである。

しかしロシアはアメリカほど偽善的ではない。ロシアは平和のためにクリミアを併合したとは言わない。ロシアはクリミアに住むロシア系住民のために動いたのであり、それが善か悪かはさておき、そこに虚偽は存在していない。そこにあるのは利害である。

一方で西側メディアは西側諸国の侵略行為をあらゆる手段によって正当化しようとする。都合の悪い勢力はテロリスト、都合の良い勢力は反政府勢力なのである。イラクに大量破壊兵器は存在しなかったが、侵略の口実としてそれらしいものがあれば彼らにとってはそれで良いのである。このような馬鹿げた話がほかにあるだろうか?

だから、どちらかの国を正当化する前に、先ずは偽善を取り払おうではないか。そして事実を直視した上で、各利害関係者がそれぞれの行動を決めれば良いのである。偽善は何も改善しない。偽善は端的に言って、単に必要がないのである。

反知性主義か反偽善主義か

上記のような情報操作は今でも続いている。イギリスのEU離脱やトランプ氏の勝利は「反知性主義」だそうである。インターネット上の反ヒラリー勢力の主張は「虚偽情報」で、大手メディアの偏向報道は「われわれが慣れ親しんできた秩序」だそうである。後者はドイツのメルケル首相の言葉である。

ちなみにトランプ氏の上記発言を取り上げた大手メディアは、わたしの知る限りロシア系のRTとSputnikだけだが、その両方が「プロパガンダを流布」したとしてEU議会決議で対抗策の必要性が主張されている。西洋とは何と自由で素晴らしい地域だろう。

しかし彼らの悪事ももう終わりである。民衆は彼らの悪意に気付きつつある。民衆はどういう人間の金と利害がそこに関与しているのかに気付きつつある。

追い詰められた彼らは新たな情報操作のためにインターネット規制を通すべく必死になっている。メルケル首相はそれに協力している。しかし彼らの頭ではインターネット関連の技術者には勝てないだろう。そして民衆も同じ手で騙されることはないのではないか。

こうした潮流はすべてイギリスのEU離脱から始まったのである。そして今度はイタリアに飛び火した。これらは当然の結果である。ヨーロッパの事情を何も知らずにEU離脱を衆愚政治と呼んでいた日本の人々は今何を思っているだろう? 無知による判断は罪である。相場なら即刻金を失うだろう。