暗号通貨取引所のCoinbase上場、規制リスクを除けば株価は非常に割安

ビットコインなどの暗号通貨の取引所を運営するCoinbase Global(NASDAQ:COIN)が4月14日、IPOを果たした。暗号通貨の取引所としては初の株式市場への上場となる。暗号通貨関連銘柄に投資したい投資家には1つ選択肢が増えたわけである。

Coinbaseのファンダメンタルズ分析

現在、Coinbaseの株式はまだ2日間しか取引されていないが、株価の値動きは次のようになっている。

初日は一時429ドルの高値まで取引されたがその後下落、2日目は322ドルで引けている。

この株価が高いか低いかである。Coinbaseはグロース株であるにもかかわらずまともに利益を上げている会社であり、2020年の売上高と純利益は次のようになっている。

  • 売上高: 12億7748万ドル(前年比2.4倍)
  • 純利益: 3億2232万ドル(前年はマイナス)
  • 1株当たり純利益: 1.58ドル
  • 株価収益率: 204

売上高が1年で2.4倍というのは驚異的である。また売上の1/4程度がそのまま純利益となっており、利ざやの大きいビジネスであることも分かる。コストがかからないということである。

株価収益率の204を筆者は低いと判断しているが、その理由がお分かりだろうか。普通の企業では株価収益率は20程度であり、100を超えるとかなり高いと判断される。しかしグロース株をファンダメンタルズ分析する場合には将来の株価収益率がどうなるかを考えなければならない。

例えば今後5年間売上高が毎年2.4倍になり、純利益も同じように増えていったとしたらどうだろうか。1株当り純利益は1.58ドルに2.4の5乗を掛けたもの、つまり126ドルになる。株価は現在322ドルなので、株価がこのまま変わらなければ株価収益率は5年後に2.6まで下がることになる。

実際には2.4倍という脅威の成長率を5年間続けることは出来ず、成長率は年々下がってはゆくだろう。では今後5年間で純利益が毎年2倍になるというように計算しなおすと、5年後の1株当たり純利益は50ドル、株価収益率は6.3程度ということになり、それでもやはり安い。現在の株価収益率204とはそういう数字なのである。

Coinbase投資の大きな落とし穴

しかしCoinbaseのビジネスには大きな落とし穴がある。暗号通貨自体が規制されるリスクである。暗号通貨を保有している人々はこのリスクを大いに過小評価しているが、政府発行の通貨以外の通貨が本当に一般に使われるところまで普及すれば、政府は確実にそれを阻止しようとするだろう。

一般の人々は気付いていないが、通貨発行権とは恐らく世界で最大の利権なのである。政府は中央銀行を通して通貨発行権を抑えているから、自由に紙幣を刷り、その予算をGO TOトラベルや東京オリンピックなどを通じて自分の票田に振り分けることが出来る。政治家が東京オリンピック開催に必死になっている理由は一般人には意味不明だが、政治家にとっては死活問題なのである。

しかし暗号通貨が普及すれば一般の人々は日本円を必ずしも使う必要がなくなる。紙幣印刷で円やドルがすぐには暴落しないのは、今のところ国民には法定通貨を持ち続けるしか選択肢がないからである。しかし暗号通貨に替えるという選択肢が普通になれば、円もドルも紙幣印刷による減価に脆弱になり、簡単には量的緩和もできなくなるだろう。経済学者ハイエク氏が何十年も前に論じた通りである。

よって暗号通貨最大のリスクは本当に普及してしまうことである。しかし暗号通貨は遠からず本当に使われるだろう。そして政府が本気で規制を考え始める日が来る。その時にはCoinbaseの株価も危うくなるリスクがある。

しかし一方でその日までまだ時間がある。アメリカの中央銀行のパウエル議長はビットコインについて「投機の手段であり、決済には使われていない」としてドルに対する脅威ではないと述べている。

政府が暗号通貨を舐めている間はまだ大丈夫である。筆者の予想では、規制リスクが現実のものとなる前に投資家がCoinbaseの高い成長率に気付き始め、株価がやや過大評価されるところまで行く可能性が高い。将来に大きなリスクがあることを承知の上ならば上記の理由から優良な投資先である。

一方で規制リスクは恐らく5年の内に現実のものとなるだろう。その時暗号通貨はかつてスイスの銀行業が直面した脅威に直面することになるのである。

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