ジョージ・ソロス氏、暗号通貨インフラに投資

ヘッジファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏によるSoros Fund Managementが、間接的にではあるが暗号通貨に投資している。数多のヘッジファンドマネージャーらがビットコインに興味を示す中、ついにソロスファンドまでもが加わった。

BloombergのインタビューでSoros Fund ManagementのCIO(最高投資責任者)であるドーン・フィッツパトリック女史が語っている。

コモディティとしてのビットコイン

フィッツパトリック氏は言う。

ビットコインのようなものは元々は亜流の資産だったかもしれない。しかし直近の12ヶ月で米国のマネーサプライが25%も増加したために、紙幣の減価に対するリアルな不安が生じている。

新型コロナの世界的流行で経済が深刻な景気後退に陥ったことで、各国は金融緩和と現金給付などの財政出動を行なった。しかしリーマンショックの倍ほどの経済危機を資金注入で無理矢理持ち上げようとすると副作用が生じる。紙幣を刷り過ぎたためアメリカでは物価高騰の初期症状が見られている。

金融市場では物価上昇に先んじて貴金属や農作物などのコモディティ資産が高騰しているのは去年より報じている通りである。紙幣の価値が下がることが懸念されているため、紙幣を紙幣以外の何かに取り替えることが流行しているのである。

そして人々はビットコインがその目的に便利だということを見出した。フィッツパトリック氏は次のように述べている。

ビットコインは通貨ではなくコモディティだと思うが、貯蓄や移動が容易で、供給は限られておりしかもその供給は4年ごとに減る。ビットコインは非常に興味深いと思う。

通常そうした役割を果たしたのはゴールドや宝石などだっただろう。しかし金は持ってみれば分かるがかなり重い。一方でビットコインはデジタルデータなのでこれほど持ち運びやすいものはない。フィッツパトリック氏によれば、結果としてビットコインがゴールドの需要を奪っていると言う。彼女はこう続ける。

金価格の推移を考えてみれば、かなりのインフレ懸念が叫ばれているにもかかわらず、金相場は苦戦している。ビットコインが需要の一部を取っているのだと思う。

インフレ相場にもかかわらずあまり振るっていないのが金相場である。チャートを掲載しよう。

以下の銅価格と比べるとその差が分かるだろう。他のコモディティはもっと上がっているのである。

しかし数あるコモディティのなかでも一番上がっているのがビットコインである。

今年に入ってから多くのファンドマネージャーがビットコインに興味を示してきた。特にマイナード氏の目標価格の分析は投資家にとって役に立つだろう。ビットコインは大分上がったが、長期的には目標価格にまだまだ届いていない。

ソロスファンドのビットコイン投資

インタビューでビットコインを保有しているかと問われ、フィッツパトリック氏はミステリアスなスマイルでかわした。しかし一方で次のように述べている。

暗号通貨関連のインフラは非常に興味深いと思う。われわれもいくらか投資している。

フィッツパトリック氏によれば、今やソロスファンドの資金の半分は非公開株に投資されているという。Form 13Fにも情報が出てこないはずである。恐らくそうした投資先のなかに暗号通貨関連の企業が含まれているのだろう。

何故暗号通貨そのものよりも関連企業に投資をするのか。そのヒントはフィッツパトリック氏の考えるビットコインのリスクにあるかもしれない。彼女は他の何人かのファンドマネージャー同様、政府発行の暗号通貨がビットコインの脅威となると説明する。

中央銀行がいずれ独自の暗号通貨を発行するだろう。そしてそれは皆が予想するより早いと思う。中国はもう実験を始めているし、地政学的な戦略から彼らにはそれを急ぐ理由がある。自分たちの暗号通貨を世界中で使ってもらいたいと考えるだろうし、それはビットコインや他の暗号通貨にとって脅威となる。

これはレイ・ダリオ氏やジム・ロジャーズ氏も指摘していた点である。

政府が通貨発行の独占権を手放すなどということは考えがたいことである。それはあまりに魅力的な利権だからである。通貨発行権があれば無限の予算が手に入る。予算があれば票田にお金をばらまくことができる。彼らはその根拠付けのためにインフレ主義という科学的根拠のない主張を行なっている。

こうした相場観から考えれば、暗号通貨自体よりも周辺の技術に投資をするのは1つの賢い選択肢だろう。どの通貨が勝つとしても技術は必要になるからである。

しかし他のファンドマネージャーらとは違い、フィッツパトリック氏は次のようにも述べている。

しかしそうした脅威は短期的なものだ。ビットコインを永遠に封じ込めることは政府には出来ないだろう。

これはなかなか面白い見解である。

結論

筆者の見方はどうか? 個人的な見解は、政府はビットコインを封じることは出来ても、暗号通貨全体を封じ込めることは技術的にかなり困難だろうというものである。

つまりビットコインは政府に負けるかもしれないが、技術的により洗練された暗号通貨が誕生して政府と結構良い勝負をするだろう。どちらにしてもビットコインはダリオ氏の言うようにガラケーのようになり、新たな技術を持った新しい暗号通貨がこの相場の最終的な勝者となる。ここではもう3年も前の記事に以下のように書いた通りである。

暗号通貨が最新の技術をすべて投入すれば政府にとっても禁止が難しいものとなるだろう。しかし相手を舐めないほうが良いことは全く間違いない。それはスイスの銀行業が10年前に完全敗北した戦いだからである。

一方でそれは経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が何十年も前に人々に奨めた戦いでもある。彼は『貨幣論集』において、政府から通貨発行の独占権を奪還せよと説いた。

ほとんどの人々は政府の利権に服従しているが、抗う人々もいる。暗号通貨は何処まで行けるだろうか。楽しみに見物したいものである。


貨幣論集