ジョージ・ソロス氏、株価急落前にNasdaqを空売り成功

毎四半期恒例の機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの季節がやってきたので紹介したい。今回は2021年末時点でのポジションが開示されている。まずはジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementから紹介するが、見事としか言いようのないポジションになっている。

フィッツパトリック氏のソロスファンド運用

現在ソロス氏は運用の第一線から身を引き政治活動に邁進しているので、今Soros Fund Managementを主に運用しているのはCEOのドーン・フィッツパトリック女史である。

今回、ソロスファンドのポートフォリオに飛び込んできたのはAmazon.comが一部保有する電気トラックメーカーのRivian Automotive (NASDAQ:RIVN)である。

前回の開示では載っていなかったRivianが、元々の最大個別株ポジションの4倍に相当する21億ドルという規模の買いポジションとしていきなり現れたわけだが、これは21億ドルもの規模のポジションを去年の終わりにいきなり買ったわけではない。大手メディアではそのように報道されているが、彼らはもっとちゃんと仕事をするべきだろう。

これは元々非公開企業の頃からRivianに投資していたものが、去年11月のRivianの上場によって公開株となり、Form 13Fの開示対象に含まれるようになったということである。

フィッツパトリック氏は以前より公開株と同様に未公開株にも注力していることを表明している。彼女の得意分野なのかもしれない。非公開株の分はForm 13Fには掲載されないので、今回から開示に載ったのである。

Rivianの上場についてはフィッツパトリック氏が以前Bloombergのインタビューで保有株を売るかどうか聞かれ、次のように述べていた。

Rivianは素晴らしい会社だと思う。正直なところ、上場するにあたり評価額がもう少し低ければと思う。そうすれば長期的にバリュー投資として保有していられるのに。

しかし21億ドルものポジションをいまだ持っており、ソロスファンドにとっても個別株ポジションとしてはかなり大きい。大規模な賭けというよりは、元々安値で買っていた未公開株の評価額が上がったということなのだろう。

ちなみにRivianは成長株なのでインフレ局面に弱く、最近の利上げ懸念による株安に巻き込まれて新規上場の価格からかなり下落している。

しかしフィッツパトリック氏としては長期保有の構えなのだろう。

急落前のNasdaq空売り

さて、今回のソロスファンドのForm 13Fの目玉はNasdaqの空売りである。

Form 13Fは「買いポジション」の開示で基本的に空売りは開示されない。では何故ソロスファンドがNasdaqを空売りしていることが分かるかと言えば、Nasdaq 100に連動するInvesco QQQ ETF (NASDAQ:QQQ)のプットオプションの買いが計上されているからである。

プットオプションは株が下落すると儲かる金融商品で、下落に賭ける場合にも「買い」になるのでForm 13Fに掲載される。

ソロスファンドは元々このNasdaq ETFを買い持ちにしていたが、この買いポジションは9月末の3.6億ドルから年末時点で939万ドルに大幅に減額され、その上で2.8億ドル分のNasdaq ETFに対するプットオプションが購入されている。

買い方から売り方への大幅転換である。ハイテク株を多く含むNasdaqはインフレ局面で売られやすい。明らかにそれを狙った空売りである。それでこのNasdaq ETFがどう推移したかと言えば、言うまでもないだろう。

まさに年末から落ち始めている。フィッツパトリック氏の見事な手腕と言うべきだろう。

減額された買いポジション

あとは買いポジションばかりなので、減額されているものが多い。例えばインフレで不動産価格の上昇に賭けていたと思われるアメリカ大手の不動産ディベロッパーのD R Horton (NYSE:DHI)は年末までに持ち株の16%を売却し3.9億ドルのポジションとなっている。

また、インフレを懸念して前回からハイテク株を減らしつつあったソロスファンドだが、残された数少ないハイテク株のAmazon.comも今回更に持ち株が19%売却され2.5億ドルのポジションとなっている。

Rivianも含め、長期的に可能性のあるものだけ残したという感じだろう。Amazon.comは年末から下落してはいるが、最近発表された決算が良かったため、ハイテク株が軒並み総崩れとなる中でかなりマシな値動きとなっている。

結論

Form 13Fに報告されているポジション総額としては前回の54億ドルから73億ドルへの変化となっているが、元々未公開株としてカウントされていなかったRivianの21億ドルと、実質空売りポジションであるNasdaq ETFの2.8億ドルを除けば、54億ドルから49億ドルへの減額であり、それに空売りポジションが加わってくる。

これは筆者の推測だがプットオプションを使わない普通の空売りポジションもあることだろう。どれだけがソロス氏で、どれだけがフィッツパトリック氏の判断なのかは分からないが、見事なものである。マクロファンドとしてはこの状況での空売りは当たり前だろう。

他の著名投資家の開示情報も報じてゆくので楽しみにしてもらいたい。