世界最大のヘッジファンド: インフレ経済危機は世界大戦へと進化する

引き続き世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のLinkedInブログである。今回は国際政治と戦争について語っている部分を紹介したい。ダリオ氏の論考の面白いところは、ロシア・ウクライナ戦争と現在のインフレによる経済危機が無関係だとは思っていないところである。

ウクライナ情勢の本質

2022年2月末、ロシアはウクライナに侵攻した。そしてアメリカと中国の対立も日々高まっている。

ダリオ氏はこの状況について次のように述べている。

国内そして国外の対立は着々と戦争に向けて進んでおり、今後5年以内(3年程度の前後はあるだろうが2025年か2026年がもっとも高リスクだ)に内戦あるいは戦争のどちらか(両方でなければ)に突入する可能性は危険なほど高い。

思い返してみれば、ダリオ氏はウクライナ危機が起こる前から戦争勃発の可能性を警告していた。彼は覇権国家アメリカの衰退と、その結果としてアメリカの覇権に挑戦する国との戦争を予想していた。

恐らくその警告を本当の意味で真剣に受け取った人々はほとんどいなかった。ダリオ氏は次のように述べている。

当時、多くの人々はわたしの描いた将来像は突飛で誇張されていると思った。

だが驚くべきことに実際にウクライナで戦争は起こった。

ダリオ氏はロシアがウクライナに侵攻することを予知したのか? そうではない。ダリオ氏は、債務に頼らなければ経済成長できなくなったアメリカは次第に弱体化してゆき、それはコロナなどの危機が起こった時に特に加速し、それを見た他国がアメリカの覇権に挑戦するようになるということを予想したのである。

このダリオ氏の予想を多くの西洋側の人々は大袈裟だと思っただろうが、考えてみてもらいたい。アメリカがこれまで中東やベトナムや朝鮮半島で好き勝手に人殺しをしてきて、しかし誰もそれを咎めなかったのは、アメリカが軍事大国だったからである。

そのアメリカが今やアフガニスタンでタリバンに敗退するほど弱体化している。しかもアメリカの大統領は撤退時に現地にうっかり最新兵器とアメリカ国民を置き忘れてしまうほどのご老体なのである。

これまでのアメリカの行いの被害者たちがそれを見てどう思うかは、日本人でなければすぐに分かることである。

ウクライナは始まりに過ぎない

このようにしてウクライナ戦争は起こった。ダリオ氏はこれ以上なく論理的にそれを予想した。問題は、この「アメリカ衰退と他国の我慢の限界」サイクルはまだ終わっていないということである。

アメリカは自分で行った現金給付と脱炭素政策のために物価高騰に苦しんでいる。インフレ抑制のために来年の政策金利は年間を通して4%以上となる。

これまで低金利に頼り切ってきた米国企業が来年どうなるかは想像に難くない。アメリカ経済は来年酷いことになるだろう。そうなれば、アメリカを好ましく思わない国にとってはこれ以上ない好機となる。

この意味で、タリバンをめぐる状況やウクライナの戦争は、インフレによる経済危機と不可分なのである。アメリカが弱れば弱るほど戦争が勃発し、戦争によって西洋はますます疲弊してゆく。アメリカが死ぬよりもヨーロッパ人が風呂に入れなくなるのが先かもしれないが。

終わりの始まり

これがヨーロッパ人が他国を略奪して回った大航海時代に端を発する西洋の覇権の終わりである。だがダリオ氏によれば、これはまだ終わりの始まりに過ぎない。ダリオ氏は次のように述べている。

ウクライナではロシア人がウクライナ人を攻撃して殺しており、ウクライナ人がロシア人を殺しているが、アメリカとNATO加盟国はロシア軍と互いの領土内で戦っておらず、互いの人民を殺し合っていない。そして戦闘は今のところ従来の武器によるものに限られている。

だがそれは、このまま進めばイギリスやフランスやドイツやアメリカは自分の領土で戦争をすることになることを意味する。そしてダリオ氏は明らかに核戦争の危険性を示唆している。

だが少なくとも、西洋人による戦争の舞台が中東やベトナムや朝鮮半島ではなく、彼ら自身の土地になることは、筆者の意見では良いことである。何故彼らの戦争のためにまったく無関係の他国が戦場にならなければならないのか。意味が分からない。

だからアメリカはタリバンに中東から追い出され、戦争は中東ではなくヨーロッパの端で起こった。

それは良いことである。戦争がヨーロッパの端ではなく中心で起こればそれは更に良いことである。多くの人々は欧米諸国がロシアと直接戦う状況になることを恐れているが、何故彼らの代わりにウクライナ人が犠牲にならなければならないのか筆者にはまったく意味が分からない。自分の戦争なのだから、直接戦えば良いではないか。自分で戦わずにウクライナに武器を送り込む西洋諸国を支持する人間はすべて人殺しである。

結論

だがダリオ氏によれば、その状況はそれほど遠くなさそうだ。ダリオ氏は次のような不吉な予言をしている。

アメリカが中国への半導体の供給を停止できる法案を通したことや、ロシアがヨーロッパへの天然ガス供給を止めることは、1941年にアメリカが日本に対する原油の輸出を停止したことに似ている。それは日本による真珠湾爆撃に繋がった。

世界は400年もの間、西洋人が引き起こした戦争に振り回されてきた。それもそろそろ終わりだが、その前に戦争をもう1つ通り抜けなければならないらしい。

自民党に投票した日本人は好き好んでNATOによる戦争に参加している関係者だが、では無関係な人間はどうするべきか。南の島にでも逃げるべきだろうか。その結末についてはジム・ロジャーズ氏が語っている。

西洋人の戦争に巻き込まれない国の選び方は難しい。だが投資家としてやるべきことは、それに比べればよほど簡単である。現物資産の時代が再び訪れようとしている。