ポズサー氏: 制裁合戦で金本位制復活、コモディティ高騰でインフレ危機へ

さて、ここではレイ・ダリオ氏やジェフリー・ガンドラック氏など世界的な専門家の中でも著者がその知見を信頼する人物の相場観だけを伝えているが、今回はその中にもう1人加えたいと思う。

クレディ・スイスで短期金利ストラテジストをやっているゾルタン・ポズサー氏である。

内部貨幣と外部貨幣

ポズサー氏はクレディ・スイスが発行するアナリストレポートで有名である。そしてロシアのウクライナ侵攻以後、彼の名前は更に有名になった。彼はドルやゴールドがウクライナ以後の世界でどうなるかについて大変興味深い論考を発表しているからである。

ポズサー氏はこのウクライナ危機が世界の通貨秩序を変えると言っている。彼はBloombergのポッドキャストでまず次のように説明する。

内部貨幣と外部貨幣という概念がある。内部貨幣とは誰かの負債である貨幣で、外部貨幣とは誰の負債でもない貨幣だ。

内部貨幣とは預金や債券などである。預金は誰かに預けているお金という意味で借金であり、債券は借金を証券化したものだ。一方で外部貨幣とはゴールドや穀物などの現物資産、つまりコモディティのことである。これらは金融論の用語である。

そしてポズサー氏によれば、今回の危機で内部貨幣を持っていることのリスクが表面化したという。彼はこう続ける。

外貨準備の大半は様々な形の内部貨幣、つまり誰かの借金だ。

ロシアの場合、ゴールド以外の外貨準備がおよそ5,000億ドル分あり、その内2,000億ドルは有価証券であり、1,000億ドル超は中央銀行への預金で、残りは普通の銀行への預金だ。

これはつまり、ロシアの外貨準備は基本的に西側の金融機関に預けられたものであることを意味する。

よってこれらの資金はアメリカやEU、日本の制裁によって凍結された。凍結と言えば聞こえは良いが、要するに不法に盗まれたのである。これを受けてロシアもリースされている航空機を返さないなど報復に出ている。制裁合戦の始まりである。

ポズサー氏は次のように纏めている。

外国の国債を持つにしても、中央銀行への預金にしても、西側の金融機関に預金するにしても、それはつまり内部貨幣で、所有者はコントロールすることができず、それは誰かの借金であり、つまり所有者は(借金が返されないことにより)制裁されうる。

外部貨幣の復活

こうした状況の中で、ロシアは当然内部貨幣を外貨準備として持つことを止めるだろう。では代わりにどうするのか? ポズサー氏は次のように続ける。

だが外部貨幣は完全に異なる。例えばゴールドである。ロシアの持つゴールドのすべてはモスクワの地下にある中央銀行の保管庫に置かれている。

ロシアは国内市場でゴールドの購入を再開している。

そしてこの問題はロシアだけの話ではない。大手メディアの話だけを聞いている多くの日本人には実感がわかないかもしれないが、こうしたアメリカやEUの振る舞いを危険視している国は少なくない。ジム・ロジャーズ氏は次のように書いていた。

制裁はアメリカを害している。今や多くの人がドルの代わりになるものを探し求めている。中国人、ロシア人、インド人、ブラジル人、イラン人…彼らは出来るだけ早く米国ドルの代わりになるものを作ろうとしている。

何故ならば、これまでいくつも記事を書いてきたように、今回のウクライナでの戦争は2014年のクーデターで西側が始めたものであり、以下の記事に書いたように直接のきっかけは2月のゼレンスキー大統領の核兵器保有発言だからである。

それでロシアの軍事行動が正当化出来ないとしても、アゾフ連隊などについて報じない(あるいはテレビ朝日が国連の報告書に住民への暴行が記録されているこのならずもの集団を賛美し始めた)西側の情報統制の中にいない国々は、西側が行っている戦争に同意しなければ制裁を食らう状況に危機感を覚えている。

選択を迫られる中国

西側から距離を置こうとしている国の中で、経済規模が一番大きいのは中国である。

中国は明らかにドルを保有する危険性を認識しているはずだ。中国にNATOの東側への進軍を支援する理由はまったくないが、そうしなければアメリカは制裁をちらつかせている。習近平氏はロシアとアメリカに板挟みにされ、心中穏やかではないだろう。

中国は大量に米国債を抱えている。これをどうするかが問題になる。習氏は間違いなく売りたいはずである。

一方でポズサー氏がレポートで指摘しているように、中国には天然ガスなど西側の制裁で暴落したロシア産のコモディティを安く買うという選択肢が存在している。

バイデン大統領は必死に止めようとしているが、中東でもヨーロッパでも続いているアメリカの戦争のために自国の国益を捨てる理由が中国に1ミリでもあるだろうか?

米軍の都合でゴミになりかねない米国債と、高騰しているコモディティを安く買える機会が天秤に載っている。それがポズサー氏の指摘する状況である。そしてこれは中国だけの話ではない。インドやブラジルの中央銀行も加わる可能性もある。

コモディティの貨幣化でインフレ危機へ

それは急激にコモディティの需要が高まることを意味する。世界中の中央銀行の莫大な資金がゴールドや穀物などの保存できるコモディティに向かう。読者には周知のように、筆者は年始からコモディティの買いを推奨し続けている。

これまで量的緩和でばら撒かれてきたが価値は下がっていなかった紙幣の価値が、ここに来て急激に怪しくなってきている。量的緩和で大量に紙幣が存在している状況でその紙幣をゴールドなどコモディティに変えようとする大きな動きがあったとき、コモディティの値段はどうなってしまうだろうか?

これはレイ・ダリオ氏が予言していた状況である。

また、それは通貨間の価値の変動にも寄与するだろう。ポズサー氏はこう述べている。

戦時中には、通貨の重要性は大きく揺れ動く。ポンドからドルへ、そしてドルから人民元だ。

ポズサー氏の論考はダリオ氏に似ており、筆者が気に入っている理由もここの読者には分かるだろう。はっきり言ってポズサー氏はクレディスイスのストラテジストにしておくには勿体無い。

そしてポズサー氏は最終的にコモディティの地位がどうなりうるかについて、次のように述べている。

もし中央銀行がロシアのような状態に置かれ、通貨に下落圧力がかかっている時には、国は通貨を再びゴールドか何かにペッグさせる必要がある可能性のではないか?

紙幣の価値暴落によって各国の中央銀行が追い込まれた時には、紙幣の価値を維持するために紙幣とゴールドの交換を保証する、つまり金本位制を復活させる可能性があるということである。

結論

このポズサー氏の考えは大変面白い。特に重要なのは、中国がその莫大な資金を使ってコモディティの買いに走るシナリオである。世界中の貴金属や農作物の価格は暴騰するだろう。

そしてインフレ危機はアメリカの金融引き締めを加速させ、株式市場はますます窮地に追い込まれるだろう。

ここでは年始より株式の空売りとコモディティの買いを推奨してきた。

このトレードはこれまで既に莫大な利益を上げているが、今でも有効であるどころかウクライナ危機でその重要性は増したと筆者は考えている。