ガンドラック氏: 景気後退後に緩和再開でドル暴落へ

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の先月のオンラインセミナーが公開されているので紹介しよう。

インフレ率は下落トレンドへ

2022年終盤のインフレ率急落を予想したのがガンドラック氏とスコット・マイナード氏の2人だった。債券の専門家の面目躍如である。

ガンドラック氏はまず今後のインフレ率の推移について、これまでのインタビューで話していることを繰り返している。

インフレ率は今後6ヶ月で間違いなく下がる。ほとんど不可避だ。CPI(消費者物価指数)のインフレ率は年央には7%台から4%台、もしかすると4%丁度まで下がってくるかもしれない。それがわれわれのメインシナリオだ。

ではGDPについてはどうだろうか。ガンドラック氏は次のように述べている。

利上げの効果と、債券市場から資金を吸い取っている量的引き締めの蓄積を考えれば、2023年は恐らく景気後退の年になるだろう。

景気後退後の経済政策

ここからが今回の本題である。このセミナーではガンドラック氏は景気後退後の話に踏み込んでいる。

今は金融引き締めを行なっているFed(連邦準備制度)だが、1970年代の物価高騰時代では、インフレが本当に難しいのはインフレ率が下がり始めて失業者が増え始めてからだった。

2023年、物価高騰のあとにようやくインフレ率が下がり始めている。20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏によれば、インフレ率下落後の失業増加は避けられない。

そしていずれ失業者が高金利を維持する中央銀行に対して怨嗟の声を上げ始める。

だから例えばスタンレー・ドラッケンミラー氏のように、著名投資家の中には景気後退後の金融引き締めの持続を疑う声がある。

この論点についてインフレ急減速を的中させたガンドラック氏はどう考えているのだろうか。彼は次のように言っている。

1つ確かに思えることは、アメリカであれ他の先進国であれ、経済が弱まった場合の中央銀行の反応は、これまで20年の間に彼らがやってきたことと同じやり方になるだろうということだ。

つまり彼らは紙幣をばら撒き、政府は財政刺激を行なって政府債務を増やす。

パウエル議長は必死に「インフレ打倒をやり切る」と言っているのに、彼の言葉を信じる専門家は多くないようだ。

インフレ政策は止められないのか

ある程度まともな頭を持っている人ならば今や誰でも知っているように、現在の物価高騰はコロナ後の金融緩和と現金給付がもたらしたものであり、ウクライナ情勢とはほぼ無関係である。

にもかかわらず、人々はインフレが起こった後もインフレ政策を望んでいる。

何故なのか。ガンドラック氏は次のように述べている。

こういう悪癖を一度始めると止めることができない。経済に問題が生じるたびに穴をより深く掘るようになり、問題はどんどん大きくなってゆく。

景気後退が起こり、紙幣をばら撒く。インフレが起こる。経済は一時的に回復するが、麻薬が切れてくると経済はまた酷いことになる。そして更に多くの麻薬を欲するようになる。犬でさえも自分の尻尾を追いかけ回すのには数分で飽きるだろうに、残念ながらインフレ政策やMMTを支持した人々の頭は犬ほど賢くはない。

ガンドラック氏はアメリカ経済の現状の異常さを次のように説明している。

今、財政赤字はGDPの4%まで下がっており、Fedの損失や金利上昇、景気後退でこれから上がるだろうが、いずれにしても失業率がこれほど低い状態で財政赤字がこれほどの水準になったことはない。

この財政赤字の水準は、通常ならば景気後退に対応した後の水準だ。

アメリカの財政赤字はコロナ初年の2020年にはGDPの15%に達した。その多くは現金給付に使われた。それだけの資金がばら撒かれたのだから、物価が高騰しないはずがない。

財政赤字は2022年は4%になると予想されているが、この水準でさえも普通ならば景気後退後の財政支出を行った場合の水準である。アメリカのGDP比財政収支のグラフを掲載してみると、それはもう酷いものである。

景気後退からインフレ第2波へ

これからどうなるだろうか。2023年の景気後退後に政府と中央銀行が緩和に転じると考えている論者はガンドラック氏だけではない。

彼らの予想通り政府と中央銀行が再びばら撒きを行ない、しかもガンドラック氏の言うように財政赤字がますます酷くなるのであれば、その結末はどのようになるのか。

ガンドラック氏は次のように予想している。

次の景気後退では、財政刺激と金融緩和がドルを下落させ、非常に激しいインフレになるだろう。景気後退に入ろうとする中で、多くの人には直感に反するかもしれないが。

結論

パウエル議長がインフレ退治をやり抜くと宣言しているにもかかわらず、専門家の間ではインフレ第2波がメインシナリオとなってきているようだ。

ちなみにこのインフレ第2波シナリオは、筆者が彼ら専門家よりも早く2021年に提唱したものである。

2021年には世間の人々はそもそもインフレについて何も考えていなかっただろう。

だが2023年、アメリカのインフレ率が下がり始め、インフレ第2波について語り始める時期が来ているようである。そして2023年以降のドルの見通しはやはり酷いようだ。筆者のドル円予想も一緒に参考にしてもらいたい。