ウクライナの財政が風前の灯火に アメリカの支援予算が共和党の反対で議会通らず

ロシアによるウクライナ侵攻から1年半、ウクライナ情勢を巡る国際政治がここに来て急展開を見せているので、一度記事にして纏めておきたい。

ウクライナ支援への支持

日本でどれだけ報じられているのかは分からないが、ウクライナ支援に反対する声は、世界的に見れば少数派ではなかった。アメリカの経済学者ラリー・サマーズ氏が以下の記事で指摘していた通りである。

だがそのほとんどは、アメリカの対ロシア戦争から距離を置きたい中国やインド、ブラジルやアフリカ諸国など非西洋諸国であり、日本を含む西側諸国ではウクライナ支援とロシアへの制裁を支持する声が多かったと言えよう。

しかしそれでも、最近になって欧米でもウクライナ支援に反対する声は上がっていた。アメリカ共和党の支持者はもう長らくウクライナ支援に反対している。それでもアメリカの支援が続いていたのは、バイデン氏の民主党が与党だからである。

ヨーロッパではハンガリーが、一番最初から「一番の目的はこの戦争に巻き込まれないこと」とし、一方的にウクライナとアメリカの同盟に肩入れする勢力から距離を置いていた。

また、ウクライナを支援し続けているイギリスでも、ウクライナの武器供給の要求を疑問視する声は上がっていた。

最近のウクライナ情勢

そうした声は元々あった。だがそれでもそれは一部の声であり、西側のほとんどの国ではウクライナ支援を支持する政党が政権を握り、その国のウクライナ支援に影響することはほとんどなかった。

だが最近になってそうした声が政治の表舞台に表出しつつある。例えばスロヴァキアではウクライナ支援に反対する政党が第一党となった。地元の声によれば、国内の貧困層を放置しながらウクライナには大盤振る舞いする自国の政治家たちが許せないという。(何処かで聞いた話ではないか?)

また、ポーランドは武器供与などのウクライナ支援を行ないながらも、自国産業保護のため、ウクライナから流れ込む安価な穀物を禁輸していた。ポーランドはウクライナにミサイルを落とされてもウクライナに理解を示すなど、ウクライナに寄り添う姿勢を見せていたが、自国の農業が破壊されることはポーランドにとって許容できない一線だった。

だが、ウクライナのゼレンスキー大統領はポーランドの禁輸に関して、国連で「ウクライナとの連帯を装っている国がある」と暗に非難。これで堪忍袋の緒が切れたポーランドのモラヴィエツキ首相は、ウクライナへの武器供与を止めると表明した。

ポーランドとスロヴァキアはともにウクライナに近い東ヨーロッパの国であり、当事者に近い立場にある国ではあるが、あくまで小国の反対である。

だがその直後、ウクライナにとって致命的なイベントが発生する。ウクライナ支援のための予算がアメリカ議会を通らなかったのである。

危ぶまれるアメリカのウクライナ支援

何故そうなったか? 元々は来年の大統領選挙までにばら撒きを行なって国民の支持を得たいバイデン政権と、ばら撒きを阻止したい野党共和党が予算を巡って争っていた。特に共和党の保守派が反対していたのが、ウクライナ支援のための予算である。

予算で争っていた両党は、とりあえず政府閉鎖を避けるためのつなぎ予算で合意した。だがこのつなぎ予算にはウクライナ支援が含まれなかった。

そもそもアメリカ共和党の支持者はウクライナ支援への支持を撤回している。この戦争がロシアに対するアメリカ政府の戦争であり、そのために自分の税金が投入されているということに気付き始めたからである。

党派を問わず、気付く人は気付き始めている。ジェフリー・ガンドラック氏が以下のように述べていたことを思い出したい。

アメリカ国内の特定の利害グループはどうやらアメリカ国外で半年間戦争をしないことさえ耐えられないようだ。

2022年より以前にウクライナがどういう状況だったのかを知らずにウクライナ情勢に意見を持っている大半の日本人を除けば、この話が2014年のマイダン革命で欧米に支持された暴力デモ隊が当時のウクライナの親露政権を追い出したことから始まっていることを誰もが知っている。ウクライナ情勢は2022年に始まった話ではない。

また、バイデン氏とウクライナの政治家たちが、オバマ政権の時から補助金を通して深い仲にあったことも多くの人が知っている。

アメリカ共和党とウクライナ

だから共和党はウクライナ支援予算に反対した。しかも、民主党と協力してウクライナ支援予算を除外したつなぎ予算を成立させたことで、共和党の下院議長ケビン・マッカーシー氏が共和党の保守派によって解任された。

共和党の保守派は民主党に対する少しの譲歩でさえも許容しようとしていない。しかも大変興味深いことに、一部の共和党員は新たな下院議長としてドナルド・トランプ元大統領を擁立しようとしているという。

トランプ氏は下院議員ですらないので、そんなことが可能なのかと思ったのだが、報道によればアメリカでは下院議長になる要件に下院議員であることは含まれていないという。

共和党内の保守派と多数派の折り合いが付くまでの短期的な措置として考慮されているらしい。トランプ氏はウクライナ支援に反対しており、表向きにはアメリカの税金を使うなと言っているが、2016年の大統領選挙時に「アメリカによる他国の政権転覆を止める」ことを公約にしていた彼は、2014年以降のウクライナ政府がバイデン氏らの傀儡となってロシアにウクライナを攻撃させるべく努力していたことを念頭に置いているだろう。

本当にトランプ氏が下院議長になるのかどうかは大した問題ではない。だが、共和党が実際にウクライナ支援予算を通さなかったことは重要である。アメリカの予算がなければウクライナ政府は完全に立ち行かなくなる。それはウクライナをめぐる戦争に終わりが見えてきたことを意味する。

結論

ということで、ウクライナ情勢について最近の動きを纏めてみた。2022年にロシアがウクライナを攻撃した今回の戦争は、1941年に日本が真珠湾を攻撃した太平洋戦争と同じ構図である。

更に言えば、現在アメリカとウクライナ政府の同盟がこれまで支持されてきたのは、アメリカのベトナム戦争やイラク戦争(大量破壊兵器などなかった)がそのメッキが剥がれるまで一定層の人々に支持されてきたこととまったく同じである。

だが日本国外では一定の人々が気付き始めている。2014年からの経緯を何も知らずにウクライナ支援を支持している日本国民をよそに、他の西洋諸国は(アメリカ共和党でさえも)アメリカの対ロシア戦争から距離を置こうとしている。彼らが距離を置き始めているのは、単に金が理由ではない。そこに大義がないからである。

実際にはこの戦争は、自国民を犠牲にせずに他国民を犠牲にしてロシアを攻撃しようというアメリカのいつもの取り組みである。アメリカ政府の補助金漬けとなり、2022年初頭にブダペスト覚書を破棄すること(つまり対ロシア用の核兵器を保持すること)をほのめかしてロシアを戦争に誘い込んだ挙げ句、自国民を強制徴用して対ロシア用の尖兵としているウクライナ政府を善だと見なしている人々の考えは、筆者にはよく理解できない。

だが1つだけ言えることがある。欧米諸国においてウクライナ支援のメッキが剥がれようとしている時に、何も知らずにいまだにメディアの政治観をそのまま受け入れている日本人は、第2次世界大戦時、西洋諸国が植民地政策から十分な利益を得、その店仕舞いを考えていた頃に颯爽とやってきて、ドイツとともにすべての罪を押し付けられた頃の日本人と非常に良く似ている。

彼らの稀有な外交センスはいまだに健在である。そして投資家の読者に言っておくが、多数派の意見を鵜呑みにする人々は投資に勝てない。