引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のCNBCによるインタビューである。
今回は、Fed(連邦準備制度)の利下げと、それに対するアメリカの金利の反応について語っている部分を紹介したい。
アメリカの利下げ停止
アメリカではインフレ率が2%台で推移していることから、Fedは去年9月から利下げを開始したが、その後一時停止し、もう半年ほど政策金利を維持したままとなっている。
アメリカのインフレ率は2.4%、政策金利は4.25%である。トランプ大統領はこの状況でも利下げしないパウエル議長に非常に不服であり、次のように不満を撒き散らした。
われわれは愚かな議長を抱えている。
ヨーロッパは10回利下げをした。アメリカはゼロだ。多分パウエル議長は政治的な人間なのだろうか。分からない。彼は政治的で賢くない人間で、そのせいでアメリカは大損している。
政策金利を2.5%下げるべきだ。そうすればバイデン氏の短期国債の利払いを何十億ドルも節約できる。
「バイデン氏の短期国債」とは、バイデン政権が自分の任期の間だけ長期金利に負担を掛けないために長期国債の発行を抑え、短期国債を大量発行したことを指している。
コロナ直後、金利が大きく上がる前にバイデン政権が長期国債を発行していれば、米国政府は低金利の利払いを長く続けることができ、アメリカの債務負担はもっと軽かっただろう。だがバイデン政権がその時に短期国債を発行したお陰で、当時発行された短期国債が今次々に満期を迎えて現在の高金利での借り換えを余儀なくされており、アメリカの財政を圧迫している。
だから金利が下がれば国債の利払いを抑えられるのである。
パウエル議長の後任
だからトランプ大統領はパウエル議長を置き換えたがっている。パウエル氏の任期は来年5月に終わる。トランプ氏は、利下げに積極的なハト派の誰かを新議長にしたがるだろう。
では投資家は来年から金利の動きに注意すれば良いのだろうか? ガンドラック氏はそうではないと言う。ガンドラック氏は次のように言っている。
超ハト派の誰かが議長になり、何であれトランプ大統領が望むことをやろうとすればどうなるか。
トランプ大統領は新たな議長をパウエル議長の任期終了より前に発表するだろう。そうすればその新議長はいわば影のFed議長となり、就任すれば2%利下げすると言えばどうなるか。その発言そのものが金利を動かす。
ガンドラック氏は、トランプ氏が来年5月を待たず新議長を指名し、その新議長が利下げについて喋れば、債券市場はそれをすぐに織り込み始めると予想している。
実際、トランプ氏は今年の後半には新議長を発表するだろう。その時に金利はどうなるかである。
新議長の利下げと長期金利
新議長が利下げを全面に押し出せば、政策金利に沿って推移する短期国債の金利はほぼ間違いなく下がるだろう。
問題は長期金利である。これまでの常識では利下げで長期金利も下がるのだが、インフレの時代には利下げがインフレ懸念を増加させ、長期金利をむしろ上げる可能性がある。
事実、去年9月の利下げ開始の後に長期金利が上がっており、これをパラダイムシフトだと指摘したのが他ならぬガンドラック氏なのである。
ガンドラック氏は、基本的にはその状況の再現を予想している。
だが利下げ表明でそのまま長期金利の上昇(国債価格の下落)になるだろうか。短期的な値動きを厳密に予想するのは、大まかな値動きの予想よりも困難である。
実際、去年9月の利下げの例では、利下げ表明で長期金利は下がり、利下げ実行で長期金利は上がっているのである。長期金利は9月の利下げ開始が底値になっていることに注目したい。

だから、ガンドラック氏は同じような展開を予想しているらしい。ガンドラック氏は長期金利が最初は低下(価格は上昇)で反応する可能性を次のように指摘している。
国債価格は上昇するかもしれない。長期国債さえそういう発言で価格が上昇するかもしれない。本来そうなるべきではないが。本来ならば、そういう発言で長期金利は即座に6%になるべきだ。
投資家たちは長期国債の長期の上げ相場に慣れてしまっている。長期国債は実際には長期の下げ相場に入っているのだが。
結論
だが仮にそうなったとしても、長期的には利下げはインフレを呼び、長期金利はインフレを織り込んで上がってゆくだろう。
長期金利の厳密な動きを予想することは難しいが、筆者にとってはこの状況でもっと簡単に予想できるものがある。ドル相場である。
利下げで長期金利が下がろうが、利下げのやり過ぎでインフレになろうが、どちらにしても緩和を止めない限りドルは下がるはずだ。だから筆者は金利に直接賭けるよりは、ドルの下落に賭けることを好む。
そして円やユーロも信用できない以上、ドルに対して貴金属が上昇することに賭けるのである。
しかし投資家は金利についても、利下げで長期金利も低下というデフレの時の金利の動きとは異なる状況であるということを理解しておくべきだろう。ガンドラック氏は次のように述べている。
現在の金融市場は1980年から2020年までの金融市場とは違う。それがわたしの今の投資哲学の根本にある考え方だ。
パラダイムシフトである。そしてパラダイムシフトとは、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』において予想するところによれば、アメリカとドルの長期的衰退の開始である。
事実、ドルや米国債の動きはきな臭くなってきている。確実に何かが変わってきているのである。

世界秩序の変化に対処するための原則