The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏が、Making Money Podcastのインタビューで、金融市場における投資家の心理について面白いことを言っている。
金融市場と人間の行動
ネイピア氏はここで定期的に取り上げている優れたアナリストであり金融史家である。最近では、低金利政策から量的緩和、量的緩和から現金給付に移行してインフレを引き起こした先進国の経済政策は、現金給付の次には資本統制に進化するという予想を立てている。
そのネイピア氏が、今回は金融市場について興味深いことを語っている。ネイピア氏は次のように言っている。
金融の歴史を紐解けば、金融は人間の行動に関するものだということが分かる。
これは、金融市場とは単に価格という数字の推移を集めただけのものではないという意味で、例えば大量のデータをコンピュータで統計処理することで巨額の利益を生み出したRenaissance Technologiesの故ジェームズ・サイモンズ氏とは真逆の考え方である。
Renaissance Technologiesは、データとして解析できる定量的な情報だけをすべて統計処理にかけて市場の短期的な動きを予測し、大きな利益を上げたヘッジファンドである。
一方で数学者でもあるサイモンズ氏は、相場の長期的な動向など、金融市場には定量分析だけでは予想できない分野があることを認めている。
ネイピア氏は同じように、金融市場は単に数字で表せる損得だけでは動いていないと言っているのである。
人間の意思決定と金融市場
ネイピア氏は次のように言っている。
金融市場において重要なことの1つは、個人の判断を示すわけではないということだ。それは集団によって下された判断だ。
金融市場における価格は、いわば市場参加者のコンセンサスである。ある企業の株価が上がっているということは、例えば多くの市場参加者がその企業の業績は上がると思っているということだろう。
だがこの集団心理というものは、必ずしも正しいとは限らない。むしろ大いに間違っていることがよくある。
ネイピア氏は次のように述べている。
人間の意思決定は、自分の周囲にいる人々との対話の連鎖によって汚されている。
そして人は集団になるととんでもない結論を下す。政治を見れば明らかだ。それが実行されると恐ろしいことになるような結論が下されている。
1人では動物も殺せないような人々が、政治においては簡単に人を殺す決断をする。人は集団ではとんでもない決断を下すということは金融市場でも同じことなのだが、金融市場では人々は常に合理的に動くのだという幻想がまかり通っている。
ネイピア氏は次のように続けている。
だが金融市場の話になると、人はまるで同じことが起こっていないかのように、まるですべての個人がそれぞれ合理的な判断を下しているかのように、そして周囲との対話の連鎖によって思考が汚されていないかのように錯覚する。
金融市場と集団心理
例えば、コロナ後にあれだけの規模の現金給付をして、インフレにならないと思っていたのは集団心理ではないのか。筆者が2020年の後半に初めてインフレの可能性に言及したとき、世界中の人々の大半はまさか物価が高騰するなどと思ってもいなかった。
だからその時に現金給付の規模を冷静に考え、インフレと金利上昇を予想できた投資家は大きく儲けられたのである。
だから金融市場では群集心理を理解していることが非常に重要である。ネイピア氏は次のように言っている。
金融論の講義を運営していたとき、集団心理をテーマに組み込もうと思った。金融論にとってそれが重要だと思ったからだ。
それで集団心理を専門にしている2人のイギリス人を見つけ、まず1人に電話した。
わたしは彼に「金融論の講義をやっているので群集心理について教えてほしい」と言うと、彼は「わたしは金融のことは何も分かりません、わたしの専門はサッカーのフーリガンです」と言った。
わたしは答えた。「金融市場とフーリガンの話にどれだけの共通点があるか、あなたは驚くでしょう」。
結論
フーリガンは、時には暴動を起こすような過激なサッカーファンのことである。まさに金融市場のようではないか。市場ではとんでもないものに大量の資金が集まり、価値ある銘柄から大量の資金が抜けてゆく。
投資家はその資金の動向を予想しなければならないのである。
ネイピア氏は「連鎖」(原文:feedback loop)という言葉を使っている。とんでもない考えが連鎖して広がってバブルを引き起こし、それはいずれ崩壊してゆく。
その様子を世界最高のヘッジファンドマネージャーの観点から解説した本こそが、ジョージ・ソロス氏の『ソロスの錬金術』であり、彼の再帰理論である。
この本も最近では手に入りづらくなってしまった。しかしこの本は投資家にとって聖書なのである。

ソロスの錬金術