ドル円がポジション開始時の水準まで回復、原油も利益確定へ

ここ2ヶ月ほど軟調だったドル円が遂に111円台を回復した。

ドル円は北朝鮮のミサイルが飛ぶ度に沈む展開が続いていたが、底は固く、110円弱の水準を大幅に割れることもなかった。

理由としては先ずアメリカの長期金利の再上昇が挙げられるだろう。ライアン下院議長を中心とする税制改革の進展などを背景に長期金利は回復している。

また、市場はまだあまり注目していないようだが、トランプ大統領が野党民主党との協力を模索し始めたこと(逆に言えば、共和党内の保守派であるフリーダム・コーカスを置き去りにすると決めたこと)は、ドル円には大きなプラス要因となる。以下の記事で述べた通りである。

さて、ドル相場における筆者のポジションは、以下の記事で言及したプット・オプションの売りである。

プット・オプションの売りとは、端的に言えば価格が上昇か横ばいならば利益が出るトレードであり、より具体的にはオプションの買い手から時間経過ごとに保険料を受け取り続ける代わりに、価格が一定水準より下落すればその買い手の損失を肩代わりするというものである。

当初の目論見では、Fed(連邦準備制度)が量的引き締め(マネタリーベース縮小)を行うにつれてアメリカの金利が上がり、ドルには上昇圧力が働くが、短中期的にはトランプ政権の内紛など下押し要因もあったことから、ドル円の買いではなくプットの売りという手段を取った。

その後ドル円は一時的に下落することになるが、その間もドルが継続的に下落するシナリオはないと言い続けてきた。9月のFOMC会合でマネタリーベース縮小の今後の指針が発表されるより前にドル円が大幅に上下するというシナリオは、特に下落方向に関しては無いと言えるからである。

そしてドル円は結局、大幅に下落することもなく111円台まで回復した。特に最近はオプションの売りという、日本の個人投資家の読者には手の出しにくいポジションの表明になってしまってはいるが、こういう状況ではそれが最善である以上、そう表明するほかないわけである。チャートをもう一度見てみよう。

オプションの売りならば結果的に横ばいでも期間分の保険料が貰えるわけだが、7月後半の段階で、他に何が言えただろうか? 「下落方向に賭けるのが良いが、3%ほど下落したら利益確定した方が良いかもしれない」とでも言うべきだっただろうか? しかしそれほど厳密に当てられる短期トレードなどなく、そして当てられたとしても、短期トレードは成功したトレードと失敗したトレードの平均値が利益となるため、3%そのままが利益になるわけではない。一方で、オプションの売りなどの長期戦略は勝率が格段に高くなるわけである。

原油のオプションの売りも利益確定へ

そしてオプションの売りと言えば、5月から表明している原油価格のオプションの売りがある。

上記の記事では、原油価格が50ドルより上がりすぎることも下がりすぎることもないとして、プットとコールの両方の売りを表明した。この場合、50ドルを基準として上方向と下方向両方の損失を補填しなければならないが、代わりに保険料は倍になる。原油価格が50ドル丁度であれば、損失補填がなく保険料だけ受け取る計算になるため、この戦略にとってそれがベストとなる。

それを踏まえた上で、4ヶ月の時間を経た後、今の原油価格はいくらか? 50ドルである。

ということで、何の損失補填もすることなく保険料だけ受け取ることとなった。

結論

繰り返しになるが、原油価格の場合も他に何が言えただろうか。原油も一度下がっているが、大しては下がっていないのである。2016年の金価格のように、単なる買いで良いトレードが紹介出来れば良いのだが、相場は残念ながら投資家の都合では動いてくれない。

買いでも売りでも大して利益になりそうにない値動きが予想されるのであれば、単なる買いか売り以外のトレードをするしかないのである。日本の個人投資家向けの証券会社がどれだけ使えないかという話でもある。

また、原油もドルもオプションの売りはここまでで利益確定とする。原油はここからはサウジアラビアが2018年の国有産油企業サウジアラムコのIPOを控え、原油価格を釣り上げる行動に出てくる時期だろう。原油関連の国策を担当するサウジのサルマン王子は、あと数ヶ月ほどはまだ息を潜めたままかもしれないが、投資家にとっては、そろそろ撤退するには良い頃合いである。あとは王子がエネルギー価格を釣り上げるにつれて、ロシア国債が利益を出してくれるだろう。

また、ドル円はトランプ大統領と民主党の連携という絶好の買い要因があるにはある。

しかし、そのシナリオの実現は2018年の中盤以降の話であり、それより前に、ドルの買い手を警戒させるに十分な要因が最近ニュースになった。Fedのフィッシャー副総裁の辞任表明である。

フィッシャー副総裁はECB(欧州中央銀行)のドラギ議長やバーナンキ元議長、経済学者サマーズ氏などを教え子に持つ経済学者であり、金融政策を決定するFOMC会合でも大きな存在感を持っていた。イエレン議長を支える協力な後ろ盾として機能していた彼が「個人的な理由」で近々辞任すると最近伝えられた。

このニュースによって、Fedの理事の空席は4人になることが決定している。そしてその空席を埋めるための任命が出来るのは、トランプ大統領である。

つまり、トランプ大統領は自分の政策実行に有利な規制緩和派でハト派の理事を4人もFedに送り込み、2018年以降の金融政策を自分好みに変えることが出来るわけである。

そうして大統領の影響が強くなったFedの理事会に、イエレン議長が2018年2月の任期終了以降も残りたがるだろうかということが、金融業界で話題になっている。そうしてイエレン議長も降りてしまえば、トランプ大統領は5人の理事を送り込めることになる。そうなれば、2018年にはかなりハト派な中央銀行が誕生している可能性が高いということになる。

とはいえ、トランプ大統領が野党民主党と組んでインフラ投資を実現させるシナリオが潰えたわけではない。しかしそれは2018年中盤になり、順序としてはFedのメンバーの刷新の方が先になる。そのシナリオでドルが下落するリスクを受け入れてでも今ドルを買いたいほどには、今のドルは魅力的ではない。以下の記事の通り、上値も限られるからである。

ドルや原油に関しては今後も引き続き報じてゆく。今月19-20日のFOMC会合では、マネタリーベース縮小開始が決定される可能性が大きいので、注目すべきである。