引き続き、ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを創業したことで有名なジム・ロジャーズ氏のVantage Marketsによるインタビューである。
米国株と米国債の下落
2025年4月には株式市場が大きく下落し、金融市場では株安と同時に米国債が急落したことが株価の下落以上に大きなニュースとなった。
先進国の市場では、株価が下がれば通常、資金は国債へと逃避する。だが今回の株安では米国株が下落したとき、まるで途上国の金融市場のように国債からの資金逃避が発生した。
それはアメリカの財政問題を懸念しての動きである。アメリカではコロナ後の金利上昇で政府債務に多額の利払いが発生しており、米国債の利払いを新たな米国債の発行で賄うという自転車操業に陥っている。
株式市場の動向予想
財務問題のおかげで、米国株と米国債とドルから一気に資金が流出する下げ相場がついに始まるのか。前回の記事でロジャーズ氏は、まだ「アメリカ売り」にはなっていないと主張していた。
だがそれは株価が下落しないかどうかとはまた別の話である。
ロジャーズ氏は次のように述べている。
保有していた株式は数ヶ月前にほぼすべて売った。中国株とウズベキスタン株はまだ少し持っているが、ほぼすべての国の株式市場からは離脱した。
中国株は長年の住宅バブルの崩壊により数年間下落相場が続いていたが、去年中国政府が金融緩和の姿勢を見せたことから、長期的には反発が続いている。
以下は香港ハンセン指数のチャートである。

ウズベキスタンも、ロジャーズ氏が長期的に奨めている投資対象である。
米国株空売り
全般的なアメリカ売りにはなっていないとしているロジャーズ氏だが、株式市場に限ればやはり弱気らしい。
今の状況で投資家は何を買えば良いかと聞かれて、買うものを挙げるよりは空売りについて語っている。
ロジャーズ氏は次のように述べている。
わたしはトレーダーではなく投資家だが、もしわたしがトレーダーなら、空売りの対象を探し始めるだろう。相場はこれから当面の間厳しい状況になるからだ。
特に株式市場は長い間非常に難しいことになると予想している。
「もしわたしがトレーダーなら」というのは、ロジャーズ氏が世界最悪のトレーダーを自称していることに由来する。
クォンタム・ファンドでもロジャーズ氏の役割はアナリストであり、売買のタイミングはすべてソロス氏が決めていた。だからロジャーズ氏はタイミングについては自分に聞くなといつも言っている。
だが最近、ロジャーズ氏のタイミングに関しては侮れないことがある。ロジャーズ氏は去年の前半に日本株を売り払ったが、その後日本株は下落トレンドに移行しているからである。

結局、日本株の不調は金利が上昇していることに起因している。株価は長期的にはやはり金利で決まるのである。
空売り銘柄
また、空売りについて具体的な銘柄に関してはロジャーズ氏は次のように言っている。
空売りするとすれば、上げ相場で大きく買われた銘柄を空売りするだろう。ハイテク株のことだ。
相場が下落する時、一番良い投資は直前の上げ相場で大きく買われていた銘柄を空売りすることだ。
投資をする人は誰でも空売りのやり方を学ぶべきだ。空売りは投資という仕事の重要な一部だからだ。
この辺りは、筆者とロジャーズ氏で意見がやや分かれるところだ。筆者はむしろ、売上が高成長しているAI関連銘柄でもなければ、極めて割高となっている米国株を保有したくはない。
米国株のバリュエーションについては以下の記事を参考にしてもらいたい。
だが銘柄にもよるだろう。筆者が一昨年まで大儲けしたAI銘柄の筆頭であるNVIDIAは、予想されている売上高成長率が29%と(決して悪くはないのだが)下がってきたため、筆者はやや警戒している。
だがAI用のデータセンター向けに光トランシーバーを製造しているLumentumの売上高成長率は、NVIDIAのそれを大きく上回っている。
だが株価はAIで光トランシーバーが話題になる前の水準に戻っている。

筆者は去年の秋からこの銘柄を推奨しているので、いまだ20%ほどの含み益を維持しており、しかも去年の推奨通りS&P 500の下落リスクをヘッジしていたことから、ヘッジからの利益を合わせると大きなプラスになっている。
しかしそれでもこの水準は安いだろう。こうした銘柄の長期パフォーマンスは、米国株全体のパフォーマンスを上回るはずである。
結論
結局、米国株全体がどうなるかは、長期金利がどうなるかにかかっている。

長期金利は、株価反発で少し下落したものの、トランプ政権に関税の延期を強制した4%台後半までにはそれほどの余裕もない。
去年まで財務長官だったジャネット・イエレン氏の政策のせいで、今年には大量の米国債の借り換えがあり、スコット・ベッセント財務長官は一度でも良いから年内に大きく長期金利を下げたいと考えるはずである。
トランプ政権は恐らく年内に何かを仕掛けてくる。そして筆者は、金利を下げるために犠牲になるのは恐らくドルと株価だと考えている。円建てで米国株を考えている日本の投資家には地獄である。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想しているアメリカとドルの覇権の終わりが近づいている。
ロジャーズ氏は「まだ」アメリカ売りではないと言うが、「まだ」とはどれくらいだろうか。

世界秩序の変化に対処するための原則