レイ・ダリオ氏: 一般市民が紙幣からゴールドに逃げ出す瞬間が来る

世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏が、最近発売された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で、紙幣の価値下落への恐れが投資家だけでなく一般市民にまで及ぶ瞬間について語っている。

ドルからの資金逃避

コロナ後の物価高騰からウクライナ戦争まで予想的中させた世界屈指の機関投資家、レイ・ダリオ氏が、ワシントンDCで与野党の政治家と話した結果、どうもアメリカの財政赤字の問題は解決されなそうだという結論に達している。

財政赤字が解決されなければ、赤字を埋めるために発行される大量の米国債は、結局のところ中央銀行が買い入れるしかないだろう。

金融市場の投資家たちはそうした状況を察知し、ドルから逃げ、ゴールドを買い漁っている。最近の金価格の上昇はそういう理由である。

まだ金融市場だけのトレンド

投資家にとってはドルからゴールドへの資金逃避は誰もが知っていることで、ニュースでも何でもない。

しかしほとんどの一般の人々は、中央銀行や機関投資家がドルから逃げるためにゴールドを買っていることなどほとんど知らないことではないか。

だが、アメリカ版アベノミクスの可能性や、財政問題の悪化によって政治が徐々に独裁政治に傾いてゆくことを予想しているダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)には、この資産逃避のシナリオの先も書かれている。

ダリオ氏は次のように言っている。

国内の預金者はもっと別の資産を保有しようとし始め、インフレをヘッジできる資産にある程度投資しようとする。そしてそれが一方的な流れとなる。

一般の人々がゴールドを買い始める

ゴールドを考えている投資家に考えてもらいたいのは、金価格は2年で50%上がっているが、それでも一般の人々はこの上昇相場にほとんど関与していないということである。

これまでの上昇相場の主役は各国の中央銀行である。ジョニー・ヘイコック氏が次のように言っていたことを思い出したい。

すべての中央銀行が現在ゴールドを外貨準備として増やしているわけではない。増やしているのは東側諸国の中央銀行だ。

中国、ロシア、インド、ブラジル、トルコ、これらは一部で、西側の国もある。だがゴールドを買っている中央銀行の多数派は東側の中央銀行だ。それは西側から東側への権力の移行なのだ。

だがダリオ氏によれば、この金相場に一般の人々(特にアメリカ人だろう)がなだれ込んでくる瞬間が来るという。

それは日本人には理解できるのではないか。もしダリオ氏の言うようにアメリカでもアベノミクスと同じことが起きるのであれば、日本人が日本円からの離脱を考えてドルを買ったように、アメリカ人もドルからの逃避のために何かを買うことになる。

日本人がドルに逃げた先でアメリカ人がドルからゴールドに逃げるのであれば、明らかに日本人には問題が生じるのだが、それはまた別の話である。

今日のテーマは、中央銀行だけでなく一般の人々まで紙幣の価値下落を懸念してゴールド買いに走るようになればどうなるのかということである。

ゴールドは何処まで主流になるか

ゴールドには結局どれだけの資金が流入することになるのか。エゴン・フォン・グライアーツ氏が次のように言っていたことを思い出したい。

今、ゴールドは世界中の金融資産の0.5%に過ぎないが、これから投資家の資産の5%か、恐らく10%ほどはゴールドになる。

確かな数字などないが、10%まで買われる場合、金価格は大幅に上がらなければならない。

これこそが、フォン・グライアーツ氏などの投資家がゴールドの上昇相場はむしろ始まったばかりだと考える理由である。

このフォン・グライアーツ氏の計算では、ゴールドの需要は20倍になることになる。需要が20倍になれば、他の要素が同じならば、単純計算で価格は20倍になることになる。

これは、1970年代の物価高騰の時代にゴールドが25倍に上がったことと符合している。コロナ以降に金価格が3倍になったところで、それを天井と考えるか初動と考えるかである。

結論

ちなみにダリオ氏は必ずしもゴールドの名指しではなく「インフレをヘッジできる資産」と書いている。ダリオ氏の著書はゴールドのほかにビットコインなどにも触れている。

ここではゴールド以外の貴金属も繰り返し薦めてきたが、そちらの価格もいよいよ上がってきた。

シルバーの価格は次のように推移している。

プラチナの価格は次のように推移している。

ダリオ氏の予想は面白いほど当たっている。ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)は英語版しか出ていないが、英語を読める人は原文で読むことをお勧めする。日本語版が出る頃にはもう遅いかもしれないからである。


How Countries Go Broke