ウォーレン・バフェット氏が率いるBerkshire Hathawayがコロナ以後、日本の商社株を大きく買っていることは知られているが、三菱商事によればバフェット氏は三菱商事株を買い増し、議決権比率が10%を超えたという。
バフェット氏が引き続き日本の商社株を買いと見ていることが分かる。
インフレと商社株
知っている人も多いだろうが、バフェット氏は日本の5大商社株に多額の投資をしている。
商社株は原油、天然ガス、金属、農作物などの生産や販売にかかわっており、商社株の買いは明らかなインフレトレードだが、バフェット氏が商社株への投資を始めた2020年8月には、インフレの話をしている人などほとんどいなかった。バフェット氏はその時期に5大商社の株式を5%分購入した。
同じ時期にはBridgewaterのレイ・ダリオ氏が歴史上の覇権国家がインフレで衰退した事実にフォーカスした著書『世界秩序の変化に対処するための原則』を書き始めているが、コロナ後の現金給付で世界がインフレになるということをこの時期に真剣に考えていたのはこの2人ぐらいだろう。
ちなみにここでは2020年10月に初めてインフレに触れているが、人々がインフレについて騒ぎ始めるのはその2年後である。
バフェット氏の商社株買い増し
その後、2021年から2022年にかけて物価は世界的に高騰し、その後収まった。その様子は、例えばコロナ後の原油価格の推移を見れば分かるだろう。

物価もほぼこのように推移している。だがバフェット氏はその後も日本の商社株を徐々に買い増し、今月ついに三菱商事の保有比率が10%を超えたという。
現状、インフレがある程度収まっているにもかかわらずバフェット氏が商社株を買い続けている理由には、恐らく2つのことがあるだろう。
バフェット氏のインフレ予想
まず第一に、バフェット氏はインフレ相場がまだ終わっていないと思っているのだろう。エネルギー資源や金属、農作物などのコモディティ銘柄は、やはりインフレにならなければ高値にならない。デフレを予想している状況でバフェット氏が商社株を買い増すとは考えがたい。
長期投資とはいえ、商社株を買い増すにあたって、バフェット氏は各国の金融政策(特にアメリカと日本)を注意深く見守っているはずである。
そしてアメリカではトランプ大統領が金融緩和に積極的な人物をFed(連邦準備制度)の新議長に据えようとしている。
また、日本でも超長期国債の下落が止まらず、日銀は量的緩和の縮小のペースを落とさざるを得なくなった。
アメリカも日本も国債の買い支えのために中央銀行に緩和をさせたいのである。バフェット氏はこうした状況を見て、2020年に始めたインフレトレードを継続しているのだろう。
バフェット氏の円安予想
また、このバフェット氏の商社株買いにはもう1つの側面がある。バフェット氏は商社株を買う資金を円建てで借用して調達している。
もちろんバフェット氏に商社株を買うお金がなかったわけではない。バフェット氏はあえて日本円で借金をして商社株を買ったのである。
日本円を借りて投資を行なう場合、まずは円を誰かから借りて、それを市場で売って代わりに商社株を受け取ることになる。この「借りたものを売る」手続きは、まさに空売りの手続きと同じである。
つまり、バフェット氏は商社株を買うと同時に同額の日本円を空売りしていることになるのであり、つまりこの円の借用はバフェット氏が円の下落に備える為替ヘッジなのである。
この為替ヘッジによって、バフェット氏は日本円が下がった場合にもこの日本株ポジションで損失を被ることがない。むしろ、円安によって商社株が上がった場合、その利益をそのまま手にすることができる。
エネルギー資源や金属、農作物などを生産する商社株を円を空売りしながら保有することは、それらのコモディティ銘柄に対する日本円の下落に賭けているも同然なのである。
結論
バフェット氏の日本円に対する相場観は明確である。バフェット氏はこの商社買いと日本円売りの組み合わせについて、今年の株主総会で次のように述べていた。
この日本株のポジションについては為替ヘッジができた。これらの銘柄は50年や100年保有する予定で、日本円で取引されている銘柄だからだ。どうなるか簡単に予想できるだろう。
日本円の50年後の姿は「簡単に予想できる」そうである。
バフェット氏はこの株主総会で次のようにも言っていた。
政府が通貨の価値を下落させようとする傾向は、制度などによって防ぐことができない。どんな独裁者でも政治家でも連れてくることはできるが、結局は通貨を弱める圧力がかかる。
経済学なり何なりを学んだところで、誰かが通貨の支配権を握れば、紙幣を印刷し、何世紀も前に行われたように通貨の価値を下げることになる。
それが政治家の本質らしい。政治家が邪悪な人間だとか言いたいわけではない。だが、通貨を長期的に無価値にすることが政府にとって自然なことであるようだ。そしてそれは重大な結果をもたらす。
バフェット氏にとって、この商社株の買いと日本円の売りは、紙幣印刷とインフレから利益を得る手段であるらしい。
紙幣印刷の果てに日本とアメリカはどうなるのか。それはまさに、ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想されていることである。ダリオ氏はこの本で、歴史上の大国がインフレで破綻した事例を交えて先進国のこれからを説明している。
バフェット氏もダリオ氏と同じ未来を見ているらしい。