ジム・ロジャーズ氏: クォンタムファンドが1970年代のインフレ相場に投資した方法

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタムファンドを設立したジム・ロジャーズ氏が、KwKによるインタビューで1970年代のクォンタムファンドの投資について語っている。

クォンタムファンド

ジョージ・ソロス氏とジム・ロジャーズ氏の始めたクォンタムファンドは、世界最初のヘッジファンドと言うべき存在である。

今ヘッジファンドがやっているような、世界中の銘柄に投資し、レバレッジを使い、買いも空売りもやるという投資法は、当時彼らしかやっていなかった。しかしそれがその後のヘッジファンド業界のスタンダードとなったのである。

クォンタムファンドが設立されたのは1973年で、ここの読者も知っての通り、それは物価高騰の1970年代の初期ということになる。それはまさに、ウォーレン・バフェット氏の師であるベンジャミン・グレアム氏が、著書『賢明なる投資家』において米国株がインフレで低迷することを予言した年である。

そして1970年代の米国株はグレアム氏の予言通りになった。クォンタムファンドはその時代に設立された。

普通の投資家にとっては最悪の時代だが、クォンタムファンドのようなグローバルマクロ戦略のヘッジファンドにとっては、動乱の時代はまさに儲け時であり、クォンタムファンドはロジャーズ氏が辞めるまでの7年間で4200%のリターンを叩き出した。これは年率にすれば71%の利益ということになる。

1970年代における個別株投資

1970年代は米国株にとっては長期低迷の時代である。当時の米国株全体のパフォーマンスについては以下の記事を参照してほしい。

だがそういう時代でも優れた個別株を選べば、株式投資においても利益を上げることができる。

1970年代にクォンタムファンドが選んだのは防衛株である。防衛株で利益を上げたことについて司会者から聞かれ、ロジャーズ氏は次のように答えている。

確かに防衛株はわたしたちがお金を儲けた銘柄だった。それは中東戦争があったからだ。

ここでロジャーズ氏が言っているのは1973年から始まった第4次中東戦争のことだろう。

ロジャーズ氏は次のように続けている。

エジプトの航空機がイスラエルによって空から排除されていた。

どうしてそうなっているのだろうと思った。エジプトは十分な技術を持っていなかったからだ。

だがそれから、エジプトはロシアから電子戦の助力を得るということ、そして電子戦の分野は素晴らしい投資になるだろうということに気づいた。

それで電子戦に関連しているアメリカの会社を探して投資をした。わたしにとってはあまりに単純な話だ。その投資は上手く行った。

戦争においても技術革新はあり、その時代ごとに新技術としてもてはやされるものがある。今の時代であればドローンだろうか。戦争があれば、そうした技術に関連する銘柄を見つけ、投資することもできるというわけである。

破産寸前だったLockeed

また、ロジャーズ氏はもう1つの銘柄として、当時破綻寸前だったLockeed(今のLockeed Martin)を挙げている。Lockeedは航空機メーカーだが、当然防衛産業にも関係している。

ロジャーズ氏は次のように述べている。

当時、Lockeedは破産寸前だった。Lockeedは主要な航空機メーカーだったが、大型機を重視しすぎるというミスを犯した。そして一文無しになった。

そして株価は、覚えていないが2ドルくらいだった。

何故Lockeedはそうなったのか? それは単にLockeedの経営判断だけの問題ではない。ロジャーズ氏は次のように続けている。

覚えている人もいるだろうが、1960年代は反戦の時代だった。誰もが防衛費にも反対だった。だから1970年代にLockeedの株は完全に見捨てられていた。

1960年代から1970年代にかけては、ベトナム戦争が泥沼化しアメリカがそこから手を引こうとしていた時代である。

流石のアメリカ人もこんな戦争に何の正義もないということに気づき始めていたのであり、反戦の雰囲気は防衛株をどん底に落としていた。

ロジャーズ氏は次のように続けている。

それで破産した。防衛株だ。誰も防衛株など欲しがらなかった。

結局、1971年にLockeedは破綻寸前まで行き、政府によって救済された。そしてロジャーズ氏がクォンタム・ファンドを創業する1973年になっても株価は低迷していた。

しかしロジャーズ氏は次のように考えた。

しかしわたしはLockeedは終わっていないと思った。利益の出せる素晴らしい会社に返り咲くと考えた。特に、アメリカが防衛費に莫大なお金を投入しようとしていたのだから尚更だ。

時代の変化

Lockeedは、ベトナム戦争に対する反戦の1960年代から中東戦争の1970年代への大きな時代の変化を象徴する銘柄であると言える。そしてその後の1980年代には、レーガン大統領の「強いアメリカ」へと向かってゆく。

前の時代に見捨てられていたものが次の時代の寵児となるとき、株価は途方もない上昇を経験する。だがそのためには、大多数が追いかけている銘柄を買うのではなく、大多数が誰も見向きもしないような銘柄を自分の判断を信じて拾う必要がある。

ロジャーズ氏とソロス氏は、ともにそれが誰よりも得意な投資家であり、この2人の居た頃のクォンタムファンドが年率71%というパフォーマンスを叩き出したのは当然のことだっただろう。

さて、現代において何十年も不毛だったトレード、しかし次の時代においてスターになれるトレードは何だろうか。それはアメリカとドルの覇権の凋落に賭けるトレードではないのか。

レイ・ダリオ氏はそのシナリオの予想のために新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)を1冊仕上げている。日本語版はないが、英語が読める人は読んでおくべきだろう。


How Countries Go Broke