引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、FTによるインタビューである。
今回はインフレと暗号通貨について語っている部分を紹介したい。
紙幣の価値下落
コロナ後の金利上昇で米国債の利払い費用がアメリカの財政赤字の半分にまで急増したことから、アメリカはこれから国債の大量発行の時代へと入ってゆくことになる。
国債の利払いを国債発行で賄うわけだから、毎年利払い分だけ国債が増えるのであり、これから米国債の総量が指数関数的に増えてゆくことは数学的に避けられない。
国債の価格は需要と供給で決まるので、米国債の買い手の方も同じように指数関数的に増えるのでなければ、米国債は長期的には下落せざるを得ないとダリオ氏は予想しているのである。
また、多くの日本人は気にしていないが、日本でも国債の下落がもう2年以上止まっていない。
紙幣と国債が暴落する時代
結局のところ、誰も国債を買わないのであれば中央銀行が買うしかない。
大量の国債が刷られる。それを買い支えるために、中央銀行が大量の紙幣を印刷する。
そして国債と紙幣の両方の価値がどんどん薄まってゆくという懸念については、これまで多くの著名投資家が表明してきたが、今回ダリオ氏は次のようにかなり直接的にそれを指摘している。
ほとんどの不換通貨、特に多くの負債を抱えている国のものは、これから効率的な富の貯蔵手段として問題を抱え、現物資産に対して価値が下落してゆくと予想している。
これは1930年から1940年の期間や1970年から1980年の期間に起こったことだ。
1970年代の物価高騰時代については、コロナ後にインフレになってからここでは何度も話題にしてきた。
1930年代については、ダリオ氏が前回の記事でトランプ大統領の強権的な政治がその時代に似てきたと述べていた時代である。
両方の時代でドルの価値が下落し、そして米国債が暴落した。そしてこれらの時代は、金利上昇で米国株が長期低迷した時代でもある。
インフレヘッジとしての暗号通貨
だから株式はインフレヘッジにはならないということは、これまで何度も記事にしてきたことである。
では暗号通貨はどうなのか? インタビューをしたFT側が暗号通貨に関するダリオ氏のコメントを望んだこともあるが、ダリオ氏は暗号通貨について次のように言っている。
現状、暗号通貨は供給量の限られた新種の通貨だ。だから、他のすべての条件が同じならば、ドル紙幣の供給が増えるか需要が減る場合、暗号通貨は新たな通貨として魅力的なものとなる可能性が高いだろう。
理屈は簡単である。インフレとは紙幣の価値下落である。そして市場における価値とは需要と供給で決まる。
だから、紙幣の需要が減るか、供給が増える(ダリオ氏はその両方を予想している)場合、紙幣の価値が下がる。
だから紙幣の価値が下がり、他のものの価値が変わらないと仮定すると、紙幣に対して他のすべてのものの価値は上がるということになる。
結論
それがインフレである。ものの価格が上がっているように見えるが、実際には他のものの価値は変わらず、紙幣の価値が下落しているのである。
だが株式はその恩恵を受けなかった。それはインフレよりも金利上昇に大きな影響を受けたからであり、暗号通貨の見通しは、金利上昇によるマイナスを暗号通貨への資金逃避が上回れるかどうかにかかっているように個人的には思える。
インフレとは通貨の価値が下がっていることだということを人々がなかなか認識できないということについては、アダム・スミス氏が『国富論』で説明しているような古典的なトリックなのだが、いまだに多くの人には理解されていない。
政府の紙幣印刷による紙幣の価値下落から逃れるためには、正しい経済の知識が必要である。それがあったならば、人々はインフレ政策など元々支持しなかったのだろうが。

国富論