ドラッケンミラー氏: インフレを引き起こした政府の間違いは長期にわたって貧困層を苦しめる

ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを率いたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏がCNBCのDelivering Alpha Investor Summitで、コロナ後にインフレを引き起こした政府と中央銀行の経済政策について語っている。

「インフレは一時的」

2021年、アメリカのインフレ率は既に中央銀行の目標値である2%を大きく超えて推移していたにもかかわらず、Fed(連邦準備制度)のパウエル議長やバイデン政権は、何の根拠もなくそのインフレを一時的なものであると主張し、大規模な金融緩和と財政緩和を継続してきた。

「インフレは一時的」という馬鹿げた理論によって、5兆ドルの財政刺激と5兆ドルの量的緩和が行われた。

だが実際にはインフレの芽は2021年よりも前に既に存在していた。そして中央銀行の無責任もそれよりも以前に既に存在していた。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

2020年秋の金融政策を覚えているだろうか? Fedはもはや経済を予想するのを止めた。

正確には2020年8月末だが、パウエル議長は中央銀行のスタンスを変更し、2%の物価目標を修正、コロナ流行によるロックダウンでインフレ率はデフレ側に動いたのだから、インフレ率が「一時的」に2%を超えて推移するとしても平均で2%になれば良いと主張した。インフレ率が上ぶれすることを実質的に中央銀行の目標としたのである。

しかし「一時的な上ぶれ」とはどのくらいの期間を意味しているのか? パウエル氏は「一時的とは長期間ではない」などの禅問答を繰り返しはぐらかした。要するに彼には自分の政策の結果インフレ率がどうなるか分からなかったのである。にもかかわらず紙幣印刷継続を表明してインフレ率上昇を支援した。

その後パウエル氏が目指した「一時的なインフレ率の上ぶれ」はどうなったか? アメリカのインフレ率のチャートを見ればすぐに分かる。

ドラッケンミラー氏は次のように言っている。

Fedはすべてはデータ次第だと言い、インフレが白目をむいて倒れるのを待つと言った。それでどうなったか? 彼らが白目をむいて倒れた。

インフレがウクライナ情勢のせいだという政府と大手メディアの完全に間違った出鱈目をいまだに信じている人々に言っておくが、2020年8月の時点でパウエル議長は物価高騰の可能性を認識しており、しかも2%のインフレ目標の意味を変更して実質的にインフレの上ぶれを目指した金融緩和を行なった。彼らがインフレの原因なのである。

インフレ主義という妄想

だがそもそもインフレターゲットとは何だったのか? 何故政府はインフレを目指していたのか? いずれにせよ世界中の政府がインフレ目標を口実にばら撒きを行ない、そして実際にインフレが起こった。

おかしなことだがそれで人々は文句を言っている。ここに至って人々はようやく、インフレとは物価上昇のことだと気付いたらしい。彼らは辞書を持っていなかったのだろう。

だがそもそも政府と中央銀行は何を目指していたのか? ドラッケンミラー氏はそこに疑問を呈する。アメリカではインフレ率が1%台の時代に、それを2%にするために莫大な金額の紙幣印刷を行なってきた。それについてドラッケンミラー氏は次のように述べている。

Fedがインフレ率を1.7%から2%まで0.3%上げるために行なった無謀なギャンブルは、リスクリワード比を考えると、1ドル得るためのギャンブルに40ドル賭けたようなものだ。

そして彼らは負けた。だがそのギャンブルで本当に負けたのは誰か? インフレで苦しむアメリカの貧困層や中流階級だ。

そしてその経済に対する反動は本当に長期にわたって続くことになる。

インフレとは物価上昇のことだという、辞書を引けば誰でも分かるようなことさえ理解せずにインフレ政策を支持してきた馬鹿たちは自業自得だが、可哀想なのはインフレ政策を支持しなかったにもかかわらず馬鹿たちのお陰でインフレを食らった人々である。

筆者のような投資家はどのような状況でも金融市場を利用して利益を稼ぐことが出来るが、彼らにとってインフレはどうしようもない。多くの人が他人の政治的妄想のおかげで困窮してゆく。

経済は景気後退へ

いくら紙幣をばら撒いてもインフレにならないことだけが、つまりはデフレだけが頼りだったのに、そのデフレはもはや存在しない。そして中央銀行はインフレによって強力な金融引き締めを余儀なくされている。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

これまで上げ相場を引き起こしていたすべての追い風は、無くなっただけではなく逆転している。

インフレ主義者の頼みの綱がデフレだったというのは、あまりにも皮肉な話ではないか。だが金融緩和を頼りに何十年も上昇してきた米国株はもう終わりである。

実体経済はどうなるだろうか。ドラッケンミラー氏は次のように予想している。

2023年に景気後退に陥らないとすれば驚愕だ。タイミングは分からないが、2023年の末までには間違いなくそうなる。

これまでの資産価格がバブルになっている状態で莫大な量的緩和から量的引き締めに移行するという、この状況を引き起こした資金の大きな流れを考えると、経済が本当に深刻な状態になる可能性も排除できない。

わたしにとってのメインシナリオは2023年の末までに経済はハードランディングを迎えるというものだ。

ドラッケンミラー氏は株価についても陰鬱な予想を立てている。それについては以下の記事を参考にしてもらいたい。

まあ政府の言うことを盲目的に信じて紙幣印刷を支持した馬鹿たちは、同じように金融庁を盲目的に信じてつみたてNISAで米国株を買い込んでいるだろうから、彼らには彼らに相応しい因果応報が待っているということになる。

金融市場とは本当に素晴らしい場所である。