サマーズ氏: 米国は利上げの可能性、市場に利下げを織り込ませたのは馬鹿げた間違い

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、今週発表されたアメリカのCPI(消費者物価指数)統計について、Bloombergのインタビューで語っている。

米国のインフレ統計

CPI統計の詳細については以下の記事で報じた通りである。

データ自体は事前予想とそれほど変わらなかったが、インフレの根強さを再確認させるもので、Fed(連邦準備制度)の言うようにインフレ率がここから2%に向けて下がってゆくと考えられるような証拠はまったく無かったと言えるだろう。

このCPI統計についてサマーズ氏は次のように言っている。

それほど驚きはしなかった。

経済が潜在成長率よりも高く成長し、失業率が3%台で推移しており、財政赤字は巨額でしかも増加し続け、そして金融状況が極端に緩和的な中、インフレが力強く再加速さえするかもしれないということは誰にとってもサプライズではないだろう。

インフレ率については様々な人が様々なことを言っているが、筆者とサマーズ氏はともに年始からインフレ再燃の可能性を警告し続けてきた。

一方で株式市場はインフレ見通しを楽観し、年内複数回の利下げを織り込みながら上昇してきた。

だが、足元のインフレ統計や雇用統計などの経済データは、インフレがそれほど簡単には落ち着かないということを確実に示している。

今年の利下げはどうなるか

アメリカの政策金利は現在5.25%となっているが、現状の金利水準でインフレが再加速するのであれば、利下げどころか利上げが必要となる。

問題は、今年問題なく利下げできると主張し続けてきたFedのパウエル議長が意見を変えるかどうかである。

今後の金融政策についてサマーズ氏は次のように述べている。

それを予想するわけではないが、利下げではなく利上げになる可能性について真剣に考えるべきだ。

あらゆることが起こり得る。市場が急落するかもしれないし、経済指標が急低下するかもしれない。

だが現在の指標に基づけば、6月に利下げすればFedが2021年の夏にインフレの脅威を理解しなかった時と同じような危険でひどい間違いになるようにわたしには見える。

パウエル氏は2021年、アメリカでインフレ率が7%まで上がる中、「インフレは一時的」だと根拠なく主張し続けてインフレを放置した。

インフレがこのまま再加速し、しかもパウエル氏がそれを放置するとすれば、それこそ本当に2021年の失敗の繰り返しになる。

インフレは再燃するのか

ではインフレは再燃するのだろうか。サマーズ氏は次のように述べている。

コモディティ価格は上昇しており、それは市場のインフレ期待に織り込まれている。だから期待インフレ率は上がっている。

多くのアメリカ人は住宅価格が手頃になったとは思っていないだろう。そんな訳がない。

サマーズ氏はエネルギー資源や金属、農作物などのコモディティ市場に言及している。

市場がどうなっているかと言えば、農作物はそれほどでもないが、原油や貴金属などの価格はかなり上がっている。

特に原油価格の上昇はインフレにかなり寄与するので、原油価格が今年に入って反転したことはかなり大きい。

結論

だからサマーズ氏は未だに利下げを主張しているパウエル議長を批判し、次のように述べている。

失業率がFedが通常の失業率と考える水準よりも低く、経済成長はFedの考える潜在成長率より高く、インフレ率は明らかに目標より高くしかも十分に加速している時に利下げを考える理由は何なのか?

Fedはまたもや現実ではなく希望に基づいて経済を予想し政策運営をしており、ここ6ヶ月から9ヶ月ほどの間道を踏み外していると言える。

Fedはまたもやインフレを加速させてしまうのか。しかしサマーズ氏は次のように論じている。

Fedは2021年の間違いを見事に訂正してみせた。だから今回も、金融市場に愚かにも6回もの利下げを織り込ませた去年の秋の間違いから軌道修正すると考えても良いだろう。

金融市場は一時期楽観的にも今年6回の利下げを織り込んでいたが、その後3回に織り込みが減り、今では何と1回か2回の織り込みとなっている。

次のFOMC会合でパウエル氏が何と言うか注目である。インフレ統計の記事はよく読んでおいてもらいたい。