世界最大のヘッジファンド: 40年続いた米国株強気相場が崩壊する

ここの読者には何も新しい話ではないが、去年から当然のこととして予想されていた今年の株価下落について、著名投資家らが次々に結論めいたものを発信している。今回は世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏の見解を紹介する。

金融緩和バブルの終わり

米国株のバブルが崩壊しようとしている。40年続き、40年間株式市場を支えてきたアメリカの金融緩和がインフレによって打ち砕かれようとしているからである。

アメリカのインフレ率は8%に達している。

物価高騰を抑制するため、アメリカの中央銀行は利上げと量的引き締めという金融引き締め政策を断行するつもりである。

その規模・速度は2018年に世界同時株安を引き起こした時の2倍である。それは株式市場を殺し、経済を深刻な景気後退に陥らせるには十分だろう。

金融緩和が終わる時

何故こうなってしまったのか? 人々が喜んで低金利政策を支持し、中央銀行がいくら紙幣を印刷しても問題ないと考えていたとき、このような結果が想定されていただろうか。

紙幣をばら撒けば紙幣の価値が下落し、持っている現金が紙切れになるのは当たり前の話である。だが人々はそう思っていなかった。何故ならば、いくら低金利に頼り、いくら紙幣印刷してもインフレにならない時代が何年か続いたからである。

その期間は人間の人生を基準にすれば長い。アメリカの金利低下トレンドは1980年に始まっている。アメリカの政策金利は次のように推移している。

その間、低下し続ける金利は株式市場を持ち上げ続けた一方で、特に問題は起こらなかったように見えた。

だがそれは、印刷された紙幣を人々が本当の意味では使っていなかっただけである。降ってきた紙幣を使おうが、自分の貯金を使おうが、貯金がちゃんと存在する限りは同じことで、紙幣印刷の影響はない。

しかしコロナで経済が疲弊し、一時はロックダウンで人々がものの生産を止め、いまだに工場が止まっている国がある一方で、それでも現金給付で消費だけは莫大に増えた結果、人々はついに本物の物不足に直面した。

そして今や人々はこれまでに降ってきた紙幣をフル活用してものを買おうとしている。誰もが紙幣を持っている一方で、エネルギー資源や食料品は不足している。

物価は上がり、それを抑えるために金融緩和を止めなければならなくなる。40年間米国株を支え続けていた金融緩和が終わる。それが米国株にどのような影響を及ぼすか、説明の必要があるだろうか?

40年来のパラダイムシフト

ダリオ氏は次のように言う。

「インフレを恐れる必要はない」「現金にしておけば安全だ」というこれまでの価値観に衝撃が走っている。顔面を殴られたようなものだ。市場は40年間強気相場だったが、全投資家がその顔面を殴られている。

今頃インフレに驚いている日本人は置いていかれているが、アメリカやヨーロッパでは既に経済に関する価値観が大変動を経験している。

物価はどんどん上がってゆく。資産を現金のままにしておけば、買えるものの量がどんどん減ってゆく。現金は無価値になる。

そして無価値になりつつあるのは現金だけではないようだ。何故ならば、株式はインフレに弱いからである。その中でも特に下がっているのがハイテク株だろう。

ダリオ氏は次のように言う。

こうしたことが起こるとは思われていなかった。誰もがハイテク企業を信じていた。

経済に関する常識が急速に変わってゆく。だが大半の人々はまだ古い価値観に取り残されている。

それはつまり、大変動はまだまだこれからだということである。

いずれはこの取り残された人々も動かざるを得なくなる。大量に存在する彼らが現金を現物資産に変えようとし、インフレ局面における株式の脆弱さに気付いた時、本当の下落相場が始まるだろう。

結論

投資家はどうすれば良いだろうか? 普段センセーショナルな発言を避けるダリオ氏にしては踏み込んだ助言をしている。

この状況で利益を上げるためにはポートフォリオを多様化するだけでは駄目だ。様々な資産の買いと空売りの両方を行わなければならない。

これは要するに、インフレで下落する資産(例えば株式や債券)の売り、上昇する資産(例えばコモディティ)の買いを意味しているのだろう。これは筆者が年始に発表し、ドラッケンミラー氏も行なっているトレードと同じである。

結局、この状況で優れた投資家が考えることは皆同じということである。

だがヘッジファンドマネージャーが空売りに言及するのは稀だ。メディアに騒がれて何も利益がないからであり、ダリオ氏のような賢明な人物は特に明言を避ける。

そのダリオ氏がついに空売りに言及している。今はそういう相場だということであり、いわゆるリフレ政策の当然の結果だろう。