ドラッケンミラー氏もインフレ株価暴落で米国株の空売り開始

前回に引き続き機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fである。

前回はジョージ・ソロス氏が空売りを拡大させたことを報じたが、弟子のスタンレー・ドラッケンミラー氏も米国株の下落に賭けているようだ。

米国株を利益確定

見てゆくのはドラッケンミラー氏のファミリーオフィスであるDuquesne Family Officeのポートフォリオである。

ドラッケンミラー氏と言えば、コロナ初期に暴落していたハイテク株を大いに買い漁り、利益を上げていたことが思い出される。しかしこれまでの開示ではMicrosoftをほぼ半分処分するなど、手仕舞いの気配が見られていた。

そして今回の開示でも米国株買いポジションは減らされている。Form 13Fに報告されているポジションの総額はこれまで以下のように推移している。

  • 昨年9月末: 31億ドル
  • 昨年12月末: 28億ドル
  • 今回3月末: 23億ドル

順調に減額され続けている。

だが今回はただ減らしただけではない。米国の株価指数S&P 500に連動するプットオプションが株式1億ドル分買われている。プットオプションは下落方向に賭ける取引だが、買い持ちであるためForm 13Fで開示される。

上記の23億ドルにはこの1億ドルが含まれているので、実質的には22億ドルと買い持ちは更に少なくなる。

また純粋な空売りはForm 13Fでは公開されないため本当の空売りの規模は不明だが、この状況でドラッケンミラー氏が株を買い持ちしているとは考えにくいため、買い持ちの総額より多いのではないか。

米国株空売りの理由

理由はアメリカの金融引き締めである。アメリカではインフレが止まらず、中央銀行は大幅な利上げと量的引き締めを決定している。

2018年の世界同時株安の時にも言ったが、量的緩和で高騰した株価がその逆回しである量的引き締めで暴落しないはずがない。

ドラッケンミラー氏は、アメリカで物価が高騰していたにもかかわらず株価が上がり続けていた去年半ばに次のように述べていた。

市場によるリスクの無視は、中央銀行が市場に向けたシグナルを撤回するまで続くだろう。

そして実際、米国株の天井が何処だったかと言えば、インフレにもかかわらず続けていた金融緩和を撤回し、強力な金融引き締めに移行した年末年始周辺だった。

だが個人投資家の多くが驚いているこの株価急落も、筆者やドラッケンミラー氏、ソロス氏のようなグローバルマクロの投資家にとっては当たり前の結果であり、皆が同じタイミングで株を売っているのも当たり前の話である。年始に書いておいた。

この状況で株を空売りしない投資家はモグリである。

ドラッケンミラー氏の個別株動向

さて、ソロス氏の時と同じように、次にドラッケンミラー氏が個別株をどう売買しているかを見てゆきたい。

まずは最大ポジションとなっているCoupangで、これは韓国のAmazon.comと言われている高成長株である。

何度も説明している通り高成長株はインフレに弱いので、Coupangの株価は当然次のようになっている。

だがドラッケンミラー氏はCoupangが下落する中で買い増している。株数で言えば9%増えている。

これはソロスファンドにとってのRivianと似ているだろうか。ソロスファンドの最大ポジションである電気自動車メーカーのRivianも高成長株であるため、この下落相場でかなり下がっているが買い増しとなっていた。

株式市場全体には弱気だが、強気の銘柄は下がっても買い続けるという姿勢が師匠と弟子に共通しているのが面白い。個人的には高成長株はインフレが収まるまで待った方が良いと考えているが、彼らの買い増しはどう出るだろうか。

コモディティ銘柄買い増し

また、他に買い増しとなっているのがエネルギー資源や金属などコモディティに関連する銘柄である。インフレとなる場面では当然ながらそれらの銘柄は買われる。

まずは石油会社のChevronであり、株数で17%買い増されて1.5億ドルのポジションとなっている。

原油価格の高騰に連動して株価も上がっている。

他にはカナダで石炭や銅、亜鉛などを扱うTeck Resourcesである。1億ドルで、こちらは新規のポジションとなっている。

また、銅や金などを扱うFreeport-McMoRanも2.4億ドル保有となっているが、こちらは前回から株数は変わっていない。

結論

ということで、ドラッケンミラー氏のポートフォリオは米国株空売り、コモディティ買いということになった。筆者が年始に発表したトレードとまったく同じものである。

インフレと景気後退という最悪の組み合わせを予想したこのポートフォリオは今年上手く行き過ぎている。

だが残念なことに世界経済の不況と物価高騰はここからが本番である。

一方でドラッケンミラー氏は年始のインタビューで紙幣印刷のツケを払うのは経済にとって良いことだと述べていた。そちらの記事も参考にしてもらいたい。