スピッツナゲル氏: 中央銀行は緩和によって経済を破壊する

市場暴落などのテールリスク専門のヘッジファンド、Universa Investmentsを創業したマーク・スピッツナゲル氏のYahoo! Financeによる去年のインタビューから、金融緩和と世界経済の関係を語っている部分を取り上げたい。

中央銀行の起源

どれだけの読者が知っているかは分からないが、世界経済にはもともと中央銀行というものはなかった。

元々市中の銀行はそれぞれ独自に自分の紙幣を発行していたが、イギリス政府がイングランド銀行に債務の肩代わりをさせる代わりに紙幣発行業務を独占させたことが中央銀行の始まりである。

その後、紙幣発行を独占できること、つまり金利を自由に操作できることが政府にとって便利なことだということが判明したので、他の国もそれにならったのである。

中央銀行による金利操作

以来、中央銀行は金利の操作を独占的に行なってきた。景気が悪ければ金利を下げて景気刺激し、金利が良ければ金利を上げて引き締めを行なう。

だが1980年以来、アメリカでは(他の多くの先進国でも)金利はずっと下がり続けてきた。コロナ後の現金給付によってインフレが生じ、インフレ対策で金利を上げざるを得なくなるまでは、長期的には金利はずっと下げられ続けてきたのである。

その理由は明白である。金利が低いことは借金している側に有利な状況である。利払い負担が軽減される。金利がゼロなら、どれだけ借金しても利払い負担はない。

その低金利政策で一番得するのは誰かと言えば、経済における最大の債務者、つまり低金利政策を行なっている政府自身なのである。

低金利政策と経済

中央銀行という考え方そのものがイギリス政府が自分の債務を無かったことにするために生まれたものであることを考えれば、低金利政策がそういうものであることは自然なことである。

だがスピッツナゲル氏は次のように言う。

金融政策は世界経済の中でもっとも破壊的な要因だ。金融政策は市場の下落や企業の倒産、景気後退などの健全で自己修復的な自然現象を危険で破壊的なものと見なして取り去ってしまった。

何故金融政策は危険なのか。低金利がゾンビ企業を延命させ、無駄な事業に人的・物的資源が浪費され続けることだけでも大きな問題だが、今まさにアメリカの国債市場で起きていることを考えれば一番分かりやすいだろう。

低金利の副作用

アベノミクスの頃から、緩和政策はインフレを引き起こさない限り問題ないとかいうことが言われ続けてきた。ゼロ金利の状況ではどれだけ借金が増えても利払いがないので、政府も民間もどんどん借金を増やしていった。

それで日本やアメリカの政府債務は莫大な金額になっている。

それでも金利が低い間は何の問題も起こらなかった。だが金利がゼロになり、量的緩和も既に行なってしまえば、新たな緩和政策として現金給付が行われた。そこで緩和は臨界点に達してインフレが発生した。

インフレが発生してしまえば、金利が上がる。金利が上がれば、これまでほとんど無害のように見えた莫大な政府債務に大きな利払いが発生してしまう。

だが政府は利払いを払えないので、そのために新たな借金を増やすことになる。だがその新たに発行した国債にも大きな利払いが生まれるので、インフレが起こった今、米国債は詰んでいるのである。

低金利政策の生み出した時限爆弾

政府債務は、ゼロ金利だった頃には無害かのように見えたことによって、多くの先進国で莫大な金額に膨らんでしまった。今やその大量の負債に利払いが発生しつつある。

だからスピッツナゲル氏は次のように言う。

中央銀行は景気後退や市場の下落が起きないようにしようとすることによって、市場経済の中に火薬庫を作り出してしまった。

低金利政策が積み上げていた政府債務は、実際には無害なものではなく、インフレが来た時に爆発する時限爆弾を徐々に膨らませていたのである。

スピッツナゲル氏は次のように続ける。

政府はそうしたリスクをわれわれのために取り去ってくれるように試みながら、実際には状況を悪化させている。

低金利政策の理由

低金利政策は、建前上は景気後退から経済を守るという理由で行われてきた。だが経済を生産性上昇以上の速度で活性化することはできない。それ以上のGDP上昇は、未来の成長を前借りしているに過ぎない。

しかも緩和を繰り返すにつれ緩和の効果はどんどん小さくなってゆく。そしてより過激で副作用の大きい緩和政策が選ばれてゆく。

例えばコロナ後にトランプ氏とバイデン氏はアメリカのGDPの10%にも及ぶ景気刺激を行なったが、その副作用は最大9%のインフレだった。

インフレとは貨幣価値の下落のことなので、たった1年分のGDPを10%持ち上げるためにアメリカ国民は全預金の9%を失ったことになる。

それは割に合っているのか? スピッツナゲル氏は次のように言う。

対処法のコストは防ごうとしている事柄自体のコストより小さくあるべきではないのか?

だがそれでも緩和政策は人気である。紙幣が空から降ってきて喜ぶ人がまだ大勢残っている。

結論

だがインフレが国民の生活を蝕んでいるのは勿論のこと、政府債務の利払い増加による国債の大量発行で国債価格が急落する可能性など、緩和の効果が薄まるにつれて問題がどんどん現れてきている。

スピッツナゲル氏は次のように言う。

世界経済は時限爆弾を抱えている。

インフレという問題が生じながら、まだ時限爆弾は爆発したわけではない。時限爆弾が爆発するのはこれからである。

緩和政策で爆発を延期することは出来るだろう。だがそうすれば爆弾は更に膨らんでゆく。アメリカはどうするのだろうか。