レイ・ダリオ氏: 米国は利上げを続けられず、すべての通貨は価値が下がってゆく

引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のColumbia Business Schoolにおけるインタビューである。今回はドルの長期的価値についてダリオ氏が述べているところを紹介する。

米国は利上げ再開か

米国経済は転換点にある。インフレ率は9%から3%台に下がってはきたが、長らくそのまま横ばいとなっており、筆者などの分析によればここから上がってゆく可能性が出てきた。

金融市場は少し前まで今年6回の利下げを織り込んできたが、その楽観は修正されて今ではたった1回の利下げ織り込みとなっているが、筆者に言わせればそれも可能なのかどうか、むしろ利上げの可能性を考えるべきではないのかということである。

米国株がここのところ下がっているのはそれが理由である。

アメリカは金利を上げられるのか

ということで、アメリカはインフレを抑えるために利上げを再開しなければならないのかという帰路に立っている。だが前回の記事でダリオ氏が語っている通り、利上げをするとただでさえ急増している米国債の利払いが更に増加してしまう。

ということで、アメリカは金利を上げられるのか。ダリオ氏は次のように述べている。

歴史を通して、いつも金利を下げるという誘惑がある。

短期的な話ならば、利上げ再開は可能だろう。何処まで上げられるかは、パウエル議長にどれだけガッツがあるかどうかにかかっている。

だが長期的にはどうなるのか。何度も言っているが株価が上がっている間はインフレは退治できていないということである。インフレを退治するというのは、株価の下落と景気後退を受け入れるということである。

通貨の運命

アメリカはインフレを退治できるのか。長期的には、その問いに答えることは簡単である。ダリオ氏は次のように説明している。

1700年からこれまでにおよそ750の通貨が存在した。

その中で今でも存在している通貨はたったの20%だ。そして生き残っている20%の通貨すべては、その価値が劇的に下がっている。

価値が下がっているというのはインフレで購買力がなくなったという意味である。ちなみに多くの日本人が円の価値下落を気にして購入している米ドルだが、インフレによる目減りを考慮すれば、ドルの価値は長期的には次のようになっている。1ドルをCPI(消費者物価指数)で割ったグラフである。1950年を100としている。

通貨の減価を避けるために通貨を買うこと自体が間違っているのである。

通貨の価値が下がる理由

通貨の価値(つまりは国民の預金の価値)が下がった理由は勿論政府によるインフレ政策である。

利下げや量的緩和などの政策の目的は、インフレを引き起こし国民の預金の価値を犠牲にして政府の債務負担を減らすことにある。2%のインフレ目標などと言って、そういう政策を公然と行い、搾取されている側であるはずの国民もそれを支持しているのだから、おめでたい話ではないか。

だからダリオ氏は、利上げが続くのか、アメリカはインフレを再加速させずにドルの価値を保てるのか、という疑問に対して次のように答えている。

だから結論は、これ(訳注:利上げ)を続けることは出来ないということだ。いや、出来れば良いのだが。出来たとしたら素晴らしいことではないか? でもそうなってしまうのだ。

結論

ということで、投資家に出来ることは政府とその供物(支持者)は置いておいて自分の身を守ることである。彼らは好きで奴隷になっているのだからそっとしておくべきだ。

上で述べたように、ドルを買って円換算で価値が上がったと言って喜んでいる場合ではない。価値が下がったドルよりも更に日本円の価値が下がっているだけの話である。

インフレで身を守りたければ、株式も選択肢に入らない。以下の記事で説明しているが、1970年代のインフレ相場では株式は実質値で酷いパフォーマンスだった。

インフレを回避するならば何よりも貴金属である。貴金属はインフレによる減価を避けられるだけでなく、1970年代のインフレ相場ではインフレによる値上がりを大きく超えて、実質値でも何倍もの価値増加となった。

農作物もインフレ分は値上がりするので、株式よりも良い選択肢である。

要するに、通貨で貯蓄を行なってはならないということである。それは基軸通貨ドルも例外ではない。

ドル以前の歴史上の基軸通貨がどういう末路を迎えたかということは、ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく説明されているので、そちらも参考にしてもらいたい。


世界秩序の変化に対処するための原則