チューダー・ジョーンズ氏: 今年中に米国債暴落、金利急上昇の可能性

引き続き、Palm Beach Civic Associationによるポール・チューダー・ジョーンズ氏のインタビューである。

財政赤字の問題

前回の記事では、ジョーンズ氏が米国株の長期上昇が続かないと語っていた部分を紹介した。

その理由は、米国株の長期的上昇は財政赤字の持続的増加に支えられており、それがそれほど長くは続かないという見通しである。

前回の記事で書いた通り財政赤字はGDPの3%でも多いのだが、今のアメリカの財政赤字は7.5%であり、それはいずれ10%まで拡大される見通しとなっている。(ちなみにこれは米国政府の見通しであり、実際には景気後退を経てより悪化すると筆者は見ている。)

ジョーンズ氏は財政赤字に頼った米国株の上昇が続かないと見ている。だがジョーンズ氏は次のように言う。

問題は、それがいつ金融市場で表面化するかということだ。

財政赤字の賞味期限

この問いにジョーンズ氏は次のように答えている。

わたしの予想は年内だ。

財政赤字は何年もの間徐々に拡大してきた。その破綻が今年とは急ではないかと思った読者も多いのではないか。

だがジョーンズ氏はその理由を次のように説明している。それは今年のアメリカの国債発行額が巨額だということである。

今年、2年前に次いで巨額の2.8兆ドルの国債が市場に放出される。

2021年にそれをやった時には問題が生じなかった。Fed(連邦準備制度)が債券を買い入れていたからだ。それがわれわれが経験し未だ戦っているインフレ騒ぎを引き起こしたのだが。

コロナ後に米国政府は巨額の現金給付を行い、その費用を国債発行でまかなった。発行した国債は中央銀行であるFedが量的緩和で買い入れた。

だがそうしてばら撒いた資金がインフレを引き起こすことになった。

今年の巨額の国債発行

では今年の国債発行が巨額なのは何故か。それは1つには、去年の半ばまでアメリカに存在する法的な債務上限を上げることが出来ていなかったために、国債を発行できていなかったからである。その分のしわ寄せが後に来ている。

もう1つは、金利上昇によって国債の利払いが増えているので、米国政府は国債の金利を支払うために国債を発行しなければならないことである。

だが新たな国債は更なる利払いを呼ぶので、これは地獄への道である。この問題は多くの著名投資家が指摘している。

これはインフレ政策が引き起こしたインフレによる地獄への片道切符である。だからインフレを引き起こしてはいけなかったのである。

国債の需給

さて、このようにして巨額になった今年の国債発行についてジョーンズ氏は次のように言う。

問題は、2.8兆ドルの米国債を買ってくれる人が必要だということだ。

だがコロナ後に量的緩和で国債を買い入れていた中央銀行は、現金給付と量的緩和がインフレを引き起こしたので量的緩和を撤回している。だから中央銀行は買い手になれない。

では誰が買うのか。国債の大きな買い手である銀行は、レイ・ダリオ氏などが指摘するように金利上昇による保有国債の価格下落で満身創痍であり、新たに国債を買えるような状況ではない。

そして海外勢は、ドルを使ったアメリカの経済制裁を懸念してドル資産の保有を避けている。

NISAに何でも詰め込みたい日本人は例外だろうが、残念ながら米国債を買い支えられるほど彼らの貯金は多くない。一緒に消えてなくなるだろう。

だからジョーンズ氏は米国債の大量発行について次のように言う。

大きな問題は、金融市場がそれを許容できるかどうかだ。

国債の下落と金利の上昇

大量発行された国債に対して十分な買い手がいなければ、国債の価格が下落することになる。債券の価格下落は金利上昇を意味するので、それは金利が上がるということである。

それは昨年終盤から金利低下を当てにして上昇してきた米国株にとって非常に悪いニュースである。それがなくとも最近の経済統計にはインフレ再燃の兆しがあり、市場の利下げ期待が消えつつある。

更に、ジョーンズ氏が懸念しているのは大統領選挙である。選挙に臨む政治家が約束することはばら撒きだろう。だが今の金融市場の問題は、ばら撒くとインフレが再燃し金利が上がり国債が暴落するということである。

今のところ選挙で勝ちそうなのはトランプ元大統領である。トランプ氏についてジョーンズ氏は次のように言っている。

あの男は負債が大好きな不動産ディベロッパーだ。しかし問題は、われわれは恐らく転換点にいるということだ。

だからわたしは今年をとても心配している。トランプ氏が勝てば、債券市場が反逆するだろう。