サマーズ氏: 米国が利上げを再開する可能性

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューに答え、先日発表されたCPI(消費者物価指数)統計についてコメントしている。

1月米国CPI統計

先日発表された1月のCPI統計ではインフレが加速している様子が表され、投資家にとってショッキングだった。筆者はインフレ再燃の可能性を年始から指摘し続けてきたので、ここの読者にはそれほどショッキングではなかったかもしれないが。

そのインフレ統計を見てサマーズ氏は次のように述べている。

ミニ・パラダイムシフトの可能性を認識しなければならないだろう。

今回のデータによって、アメリカ経済が穏やかで健全に推移する中でインフレ率が2%まで下がるというソフトランディングのパラダイムには間違いなく疑問符が付いた。

インフレ低下とソフトランディング

去年の終盤から金融市場はインフレ率の低下とそれに伴うFed(連邦準備制度)の利下げ期待を前提に動いてきた。株価が上がってきたこともそれが理由である。

株価が上がっているということは、市場はアメリカの経済成長が維持されると予想していたということである。

高金利が経済の過熱を冷却し、インフレ率は下がるが経済成長率は下がらない。だがそんな都合の良いことは有り得ないと何度も指摘しておいた。インフレ率が下がるのであれば経済成長も落ち込む。経済成長が落ち込まないのであれば、インフレも止まらないのである。

そして今やインフレが再加速し始めてしまった。しかも雇用統計などのデータを見れば、そのタイミングでアメリカ経済がついに減速し始めていることが分かる。

アメリカの金融政策

さて、市場にとっての問題は、このインフレのトレンドがFedの今後の金融政策にどのような影響を及ぼすかである。何故ならば、特に株式市場は今年Fedの利下げがあることを前提に動いてきたからである。

サマーズ氏は次のように述べている。

Fedはかなり難しい分析をしなければならない。

景気後退リスクは大きくないように見える。経済状況や消費活動は非常に強く表れている。今月や先月、クリスマスシーズンのデータを見れば、消費は今でも比較的強いままのようだ。

だから景気後退リスクは比較的少ないだろう。

一方でインフレリスクはもっと差し迫っているように見える。

市場では常にソフトランディングか景気後退かという話が話されてきた。だが実際には警戒しなければならなかったのはインフレ再加速である。

Fed自身もインフレ率が下落し、しかも経済状況がそれほど悪くなかったことを理由に今年3回の利下げを表明してしまっている。このインフレ統計が発表されるまで、市場の話題は利下げ開始が何月かというものだった。

だがサマーズ氏は次のように述べている。

Fedは非常に注意深くならなければならないだろう。3月の利下げを考慮するのはまったく正しくなかった。わたしはそれは早すぎると言い続けてきた。市場もようやくそれに追いついてきた。

5月の利下げも今や考えられないし、考えるべきではないだろう。

ちなみに金利先物市場の織り込む5月の利下げ確率は35.2%である。市場はまだ5月の利下げが有り得ると思っている。

しかしサマーズ氏は更に踏み込んで次のように言う。

それどころか、今では誰も話していないようなことを認識しなければならないかもしれない。

次のFedの行動は利下げではなく利上げである確率が十分に、恐らくは15%くらい存在する。

結論

だがここではサマーズ氏のインタビューより前に利上げの可能性について話しておいた。以下の記事で次のように書いている。

株式市場は利下げを期待して上がってきたが、このままでは利下げどころかもしかすると利上げが必要になる可能性もゼロとは言えないのではないか。

そしてその記事には次のようにも書いておいた。

株式投資家の米国株への期待は無意味である。今回のCPI統計はそれを示したと言える。

株価が利下げ期待に依存して上がってきた以上、投資家はこのパラダイムシフトの可能性について本当に真剣に考える必要がある。ソフトランディングは有り得ないと何度も言っておいたのである。