ガントラック氏の予想する次期議長はドル安株高を導くダークホース

2018年のアメリカの金融政策を巡り、市場では誰もがFed(連邦準備制度)の次期議長を予想しようとする中、著名債券投資家のジェフリー・ガントラック氏が驚きの予想を立てている。

利上げとバランスシート縮小開始を担当したイエレン議長の任期が2018年2月で終了するため、その後任者が誰になるかということを世界中の投資家が気にしているが、CNBC(原文英語)によればガントラック氏はこの話題について次のように発言している。

実は、自分はかなり異端な予想を持っている。次期議長はニール・カシュカリになると思う。

これを聞いてどう思うだろうか? 「確かに、カシュカリ氏のような人物がトランプ政権の政策には必要だ」と思えた読者は、投資家がフォローすべき事柄をしっかりフォロー出来ている。カシュカリ氏はミネアポリス連銀総裁だが、それでも分からない場合は、もう少し勉強が必要だろう。

カシュカリ氏は、アメリカの金融政策決定会合であるFOMC会合で投票権を持つメンバーのうち、最もハト派であることで知られる人物である。ミネアポリス連銀は前任のコチャラコタ氏の頃から極端なハト派で知られており、カシュカリ氏もそれを引き継いでいる。ガントラック氏は次のように説明している。

現在のFedでは彼が一番緩和的な人物ということになり、それが彼が指名される理由だ。

トランプ大統領は過去に「低金利が好きだ」と発言しており、事実、公約であるインフラ投資政策などの国の借金の増える政策を行うためには、低金利によって政府が資金を借りやすい環境が求められる。

しかし現在次期議長候補とされている人物は、その多くが金融緩和を嫌うタカ派である。最有力とされるケビン・ウォルシュ氏は典型例だろう。

これはトランプ大統領が低金利とともに銀行への規制緩和を望んでいるからである。Fedの仕事は金融政策だけではなく、銀行の監督役も任されている。そのため後継者として名前の挙がっている人物は中央銀行が市場経済に介入しすぎない、いわゆる共和党的な人選となっている。これは金融政策としては緩和嫌いを意味し、市場への影響は当然金利高、ドル高方向となる。

しかし、上記の通りそれではインフラ投資政策などの公約には不利になってしまうだろう。特に、上記の記事で報じたように、2008年にFedの理事として金融危機の状況把握に失敗していたウォルシュ氏が議長になれば、米国株が大幅に下落する可能性が高く、そうなればトランプ政権は次の選挙に勝てないだろう。

そこでガントラック氏の予想はカシュカリ氏というわけである。中央銀行のトップを任せられる経験を持ったハト派の人物と言えば限られてしまう。それは現状ではカシュカリ氏か、同じミネアポリス連銀の前総裁のコチャラコタ氏ぐらいだろう。だからガントラック氏の予想は論理的であると言える。しかし、そうなれば銀行への規制緩和の方が疎かになってしまうだろう。トランプ大統領がどちらを選ぶかである。

結論

因みに、イエレン議長の再任という選択肢もあるのだが、ガントラック氏はこれを否定している。

彼女は議長職を続けたいとは思わないだろうし、大統領もそれを望まないだろう。

これはトランプ大統領の影響が大きい、規制緩和に偏った将来のFedにイエレン議長が残りたがらないという意味である。Fedの理事には複数の空席があり、トランプ大統領にはこの空席を埋める権限が与えられている。

カシュカリ氏というガントラック氏の予想は、非常に投資家らしいものである。株式市場が何年も量的緩和と低金利に支えられてきた状況でタカ派の議長が就任し金利高になれば、株式市場は大きな下方圧力に晒されるだろう。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏もそれを心配している。

ガントラック氏は投資家としてそのシナリオが頭にあるから、カシュカリ氏というわけである。Fedが金融引き締めを推進する現在の状況を彼は次のように描写する。

市場はこれまで人工的に支えられてきた。2018年に入るにつれて、市場環境はかなり難しいものになるだろう。

彼は自分の予想を次のように締めくくっている。

次期議長がニール・カシュカリになると思っている人間は、この青い地球上で自分くらいだろうが。

ドル円は次のように推移している。これが上に行くのか下に行くのかは、次期議長の人選次第である。