アメリカ「量的緩和」再開の相場への影響は?

9月12日にECB(欧州中央銀行)が量的緩和を再開したことに引き続いて、10月11日にアメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)もバランスシートの拡大再開を決定した。

タイトルに「量的緩和」と括弧を付けているのは、Fedのパウエル議長がこの措置を「量的緩和と混同してはならない」と主張しているからである。しかし量的緩和の定義とは資産買い入れによるバランスシートの拡大ではなかっただろうか。

「量的緩和」の効果

どういう名前を付けるにしても、市場に対する効果は同じである。あるいはパウエル議長が量的緩和ではないと主張したおかげで市場はこの措置にほとんど反応していないのかもしれない。

Fedがバランスシートを逆に縮小させる量的引き締めを開始した時も同じであり、市場はほとんど反応を示さなかった。しかしここでは当時、量的引き締めを行なって市場に影響が及ばないということは有り得ないということを何度も主張してきた。筆者の予想は当たり、それが結局2018年の世界同時株安の原因となったのである。

さて、では今回の措置はどうなるだろうか? 中央銀行のバランスシート拡大とは市場から莫大な量の債券を買い入れ続ける行為なので、市場がそれを瞬時に織り込まない場合、それは毎月膨大な量の資金として裏で市場に影響を与え続けることになる。

以下の記事で説明したが、今回の債券買い入れの目的は主に短期金融市場の混乱を抑えるために短期国債を買うことである。

Fedが短期国債を買う場合と長期国債を買う場合で違いはあるのだろうか? 短期国債を買う場合、短期金利だけが下がることになり、株価や為替相場に影響を与える長期金利には影響を及ぼさないのだろうか?

今回の措置は長期金利には影響を及ぼさないというのがFed自身の自己申告である。しかしわたしはそうはならないと予想している。それは短期金利の性質から導かれる結論である。

短期国債を買うとどうなるのだろうか? 短期金利が下がるのだろうか? しかし短期金利は主に政策金利の見通しによって決まるのでほとんど上下動の余地がないのである。

短期金利の動向

例えば1年物国債があり、その金利が2%で、今後1年の政策金利(中銀が操作するもっとも短期の金利)が2%で推移し続けると予想されているとする。この状態で中銀の短期国債買い入れにより1年物国債の金利が1.5%に下がったとすれば、投資家は直ちに1年物国債を買うことを止め、1年間2%の政策金利に投資をし続けるだろう。その方が0.5%得だからである。

よって実際には、短期金利が下がったとしてもすぐに政策金利の見通しの方に引っ張られて元に戻るだろう。したがってFedの債券買い入れでは短期国債の金利はほとんど変わらないはずである。

では、債券買い入れは市場に影響を及ぼさないのだろうか? そうではない。Fedは実際に毎月600億ドルの債券を買い入れるのであり、短期金利が変わらないとしても投資家の持っていた600億ドルの短期国債が現金に置き換えられることになる。

問題は、この短期市場からいわば強制的に閉め出された600億ドルの現金がどうなるかということである。わたしの予想では、この600億ドルの多くは中期や長期の国債に投資されるだろう。つまり、やはり長期金利が下がるのである。

現在、アメリカの長期金利は1.75%近辺で推移している。チャートは以下の通りである。

下がり続けているが、これが今後どうなるかである。政策金利の方は2020年末までに1.5%まで下げられることが予想されているので、長期金利には0.25%ほどの下げ余地があることになる。

株価上昇に繋がるか?

長期金利が更に下がるところまでは良いとしよう。多くの投資家にとっての問題は、「量的緩和」による長期金利の低下が株価上昇に繋がるかどうかである。記事が長くなってしまったのでここで一旦筆を置くが、その答えを知るためには先に量的緩和を始めたユーロ圏の株式市場がどうなっているかを見れば良いだろう。

株式市場は世界的に短期的には上昇している。イギリスとEUとの間でBrexit合意がなされたことが材料となっているようだが、世界市場から見ればローカルな市場に過ぎないイギリス経済の、しかも貿易だけに関わるような話が世界経済全体にとって重要であるはずがない。

よって現在の株価上昇はフェイクである。ここからあまりに上がるようであれば、短期的な売りに入っても良いかもしれない。あるいはVIX(ボラティリティ指数)の買いも良い選択肢かもしれない。VIXはあまりに下がっているのである。