日銀がETF買い入れ倍増の追加緩和、株式市場への影響は下落方向に決まっている

新型コロナウィルス肺炎で市場が急落している問題で、日本銀行は3月16日に金融政策決定会合で株式ETFの買い入れ額を倍増させ、量的緩和政策を強化することを決定した。その株式市場への影響はどうなるかと言えば、下落方向に決まっている。

新型ウィルスに金融緩和は効かない

ファンドマネージャーや経済学者の間では既にコンセンサスとなっているが、政治家や中央銀行家には理解されていないことがある。新型ウィルスの経済への影響を金融緩和で打ち消すことはできないということである。

まず、世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が次のように述べていた。

中央銀行の金融政策に関して言えば、利下げを行ない流動性を増やしたとしても外に出ず買い物に行きたくない人々を外出させることはできない。ゼロ金利に近づくリスクを犯してリスク資産の価格を少し刺激することはできるかもしれないが。

ヨーロッパと日本に関しては、金融政策は既に事実上ガス欠であり、金融政策がどう機能できるのかを想像することは難しい。

また、より重要な問題は金融緩和が効かないことではなく、先進国すべての中央銀行が弾切れになってしまうことである。アメリカの財務長官も務めた経済学者のラリー・サマーズ氏は分かりやすく次のように言っていた。

中央銀行家にとって難しいのは、使えるツールの力が通常考えられるよりも限られる場合である。このような場合には限られるツールを使い切って弾切れを証明するよりも、金融政策をダモクレスの剣(訳注:天井に細い糸で吊るされていつ落ちてくるか分からない剣のたとえ)のように使うほうが有効だろう。銃弾が最後の1つなら撃ってはならないということだ。

何故銃弾が最後の1つなら撃ってはならないのか? 2008年のリーマンショック以来、株式市場は金融緩和を頼りに10年以上も上昇を続けてきたからである。

リーマンショックが遥か彼方である。こう見るとまだ何も落ちていないように見える。

中央銀行の弾切れが生む問題

この長い上昇相場が利下げと量的緩和で支えられてきたとすれば、それが弾切れになるというのはどういうことだろうか。今後1ヶ月ほどのことを考えてみてもらいたい。新型ウィルスは日本人にはもう1ヶ月ほども対処してきた問題かもしれないが、アメリカやヨーロッパでは今まさに正念場となりつつある状況である。

ヨーロッパではイタリアが封鎖され国境も徐々に閉じられつつあるなど社会的反応にピークが来つつあるが、アメリカで本格的に閉鎖措置が行われ社会が混乱するのはここから1ヶ月だろう。社会が混乱すれば株式市場も混乱する。投資家の体感では既にかなり落ちたように感じるかもしれないが、長期チャートを見ると状況を落ち着いて客観視できるだろう。

それほども落ちていない。そして一番のピークはこれからなのである。そして一番のピークがこれからであるにもかかわらず、その時に中央銀行に出来ることは何も残っていない。株価の暴落時に中央銀行が何もできない状況というのは戦後人類が経験したことのない状態なのである。

中央銀行の引き起こした危機

これはウィルスそのものとは関係のない金融政策上の失敗である。パウエル議長が慌てふためかず、黒田総裁がそれを師と仰いで同じ穴に落ちなければ株式市場は新型ウィルスのピークを過ぎると自然に反発したはずなのである。以下の記事でそう予想したが、こういう注釈も付けておいた。

パウエル議長が18日の利下げ以外に余計なことをしない場合、投資家は新型ウィルスの流行状況以外のことを考える必要がなく、流行のピークで株を買えるということである。

ということで、筆者はパウエル氏が余計なことをしないことを祈っている。3月2日の緊急利下げが既に余計な措置なのである。

しかしパウエル議長は余計なことをした上にECB(欧州中央銀行)と日銀までそれにならってしまった。時系列に沿って株式市場の反応を見ると、3月2日にアメリカが慌てて緊急利下げをした時、せっかく反発していた株価は陰線で染まってしまった。

ECBが量的緩和を拡大した時のドイツ株の反応は以下の通りである。

そして日銀が同じ穴に落ちた3月16日の日経平均である。

3月2日のアメリカの緊急利下げで米国株が暴落した時に何故気付かなかったのか。ECBのラガルド総裁も日銀の黒田総裁もパウエル議長が先に落ちた穴に喜んで落ちていったのである。中央銀行の行動はしばしば本当に理解しがたい。全員首を飛ばすべきではないのか。

今後の株価動向

さて、今後の株価動向だが、中央銀行の愚かな選択のためにますます不明瞭になってきた。しかし不明瞭とは言うが、大きく下落するのか非常に大きく下落するのか不明瞭ということである。アメリカで店舗閉鎖などの閉鎖措置がピークに達して株価が下落する時、中央銀行が何もできないことを市場が認識している状況というのは市場が戦後経験したことのない領域である。

その後、新型ウィルスの流行がピークを超えて感染者数が減り始めた時株価も反転するのかということについては現状では何とも言えない。今後相場の動向を見ながら決めてゆく。流行のピークまでに決断すれば良いというのが投資家に与えられた猶予である。

この状況については事前に警告しておいた。今更何が言えるだろうか。