新型肺炎で株式市場の暴落が近づいた

ここで1月から記事にし続けている中国武漢発の新型コロナウィルス肺炎のリスクに金融市場もようやく気づいたようである。当初から書いているように、新型肺炎の経済への影響は大きくはあっても短期的なものでしかない。しかし新型肺炎によって株式市場にとって別の問題が浮上したので、それについて書いておきたい。

まず新型肺炎による金融市場の状況だが、以下の記事で紹介した銘柄は軒並み大幅安となっている。

この記事では以下のように書いておいた。

短期的に売りで入るか、流行のピークまで待ってから買いで入るかは読者の好み次第だろう。

日本国内で感染が広がっているのだからこの下落は当然である。カウントされていない新型肺炎の患者が日本国内に存在していることについても事前に書いておいた。

さて、市場は次第にパニックの領域に入りつつある。レイ・ダリオ氏の発言を再び引用する。

一般的にはこうした一生に一度のレベルの災害はまず最初に過小評価され、そして状況が進むにつれて過大評価される。

現在は過小評価から過大評価への入り口というところだろう。

新型肺炎のピークはいつか

投資家がまず考えるべきは新型肺炎の流行のピークはいつかということである。このことについては新型肺炎について最初に書いた記事でSARSなど過去の事例と比較しながら既に説明している。

SARSやMERSや今回の武漢のウィルスのようなコロナウィルスの感染はいずれ収まる。実際に中国南方航空の株価も2003年5月にSARSがピークを迎えると同時に底打ちしている。

今回のウィルスも4月前後がピークとなる可能性が高い。

過去の例では下がって上がったことを踏まえながら、流行のピークについて述べた。

相場はその後その通りになっており、ピークの時期についても当初の予想を今も維持したい。まだピークではない。ヨーロッパと日本での感染拡大はこれから更に大きくなるだろう。

イタリアではミラノ近辺を中心に感染が広がっているが、ミラノの友人に話を聞いてみたところ、ミラノではそれでもほとんどの人がマスクをしていないらしい。イタリアで感染拡大が早いのも当然である。また、EUの保健委員会によれば「ヨーロッパ内の国境閉鎖は大袈裟で効果の薄い対策」だそうであり、イタリアと近接するスイスやオーストリアの国境を閉鎖する予定はないと主張している。EUの左派にとっては「国境撤廃」は信仰対象なのである。ご自由にどうぞといったところだろう。ヨーロッパで新型肺炎がイタリアだけに留まる可能性は低い。

相場の今後の動向

さて、ピークがどうなるかを考えた後に考えなければならないのは、流行のピークが4月前後だとすれば相場はどうなるかということである。

これまで紹介してきた銘柄の中にはファンダメンタルズ的に見て魅力的な価格にまで下落しているものもある。しかしこういう局面ではファンダメンタルズで底を計ってはならない。ファンダメンタルズを無視して下がるからパニックなのである。

よって現時点で魅力的な価格にまで下落していても、現時点では買いに入るべきではないだろう。流行のピークまで待つのが良いと個人的には考えている。個別銘柄の中にはピークよりも前に、あるいは後に底を迎える銘柄も出てくるだろうし、下がりすぎた銘柄は先に底を迎えるはずであるが、SARSの例でも多くの個別銘柄の底値はやはり流行のピークと一致しているのである。

底値で株を買うべきか

さて、これが一番重要なのだが、最後の問題である。新型肺炎の相場への影響ということで考えれば流行のピークが相場の底値であるはずである。しかし米国市場では新たな問題が浮上している。利下げが織り込まれつつあるのである。金利先物市場によれば、年末までの利下げ回数の市場予想は次のようになっている。

  • 利下げなし: 3.4%
  • 利下げ1回: 15.2%
  • 利下げ2回: 28.6%
  • 利下げ3回: 29.1%
  • 利下げ4回: 17.0%
  • 利下げ5回: 5.7%
  • 利下げ6回: 1.0%

12月までに2回か3回利下げがあることが既に織り込まれている。

これの何が問題なのかと言えば、今後の金融市場にとっての最大のリスクは世界中の中央銀行が緩和の手段を完全に使い果たしてしまうことだと以前に書いたことを思い出してもらいたい。利下げと量的緩和だけで2008年の底値から爆発的に上昇してきた相場がその燃料を使い果たしてしまえばどうなるだろうか?

状況を再確認しよう。日銀は既にほとんど限界まで緩和をしており、追加緩和の手段はほとんど残されていない。EUも量的緩和を再開しており、多少規模を拡大することは出来るが効果はそれほどでもないだろう。

問題はアメリカである。アメリカでは実質的に量的緩和が行われているが、6月までには終了する予定である。また、ゼロ金利までに6回の利下げが残されており、現状では手段を使い果たしているわけではない。

しかし今回のコロナウィルス相場の対応で利下げ余地が使い果たされてしまう可能性がある。少なくともその一部は市場に織り込まれ始めているのである。

現状織り込まれている2回や3回の利下げでは手段が使い果たされたとは言えず、そこで留まるならば流行のピークで株価も底打ちというシナリオがまだ有効だろう。しかし今後更なる利下げが織り込まれ始めた時は要注意である。もう一度言うが、株式市場は2008年から金融緩和に大きく依存して上がってきたのである。その燃料が尽きようとしている。

そのタイミングについてはまだ不明確である。流行のピークが来て株価が一度反発してから市場がこの問題に直面するのか、流行のピークとともに市場はこの問題に直面しなければならないのかを予想するのはまだ早い。上で述べたように流行のピークまでにはもう少し時間があるからである。

ただ、投資家は新型肺炎の流行状況とともに金利先物市場にもいつも以上に気を遣っておかなければならないだろう。金利についてはここでも逐次報じてゆくつもりである。