中国新型ウィルス、世界最大のヘッジファンドの投資戦略

中国武漢初の新型コロナウィルスが引き続き市場でも話題になっているが、この話題について世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInへの投稿でコメントしているので紹介したい。過去のウィルス流行の例と比較しての分析となっている。

市場の反応

金融市場はこの新型ウィルスの感染拡大に反応を示しているが、市場の反応は正しいだろうか? ダリオ氏は次のように述べている。

この新型ウィルスの拡大について言えば、あらゆる未知のものと同じように「事実」と「資産価格に織り込まれた市場の予想」を分ける必要がある。

これは投資のあらゆる局面において大切なことだろう。ジョージ・ソロス氏風に言えば「市場は常に間違っている」ということである。ウィルス感染のようなパニックをもたらしやすい状況においては市場は間違った判断をしやすい。ダリオ氏もそのことについて言及している。

一般的にはこうした一生に一度のレベルの災害はまず最初に過小評価され、そして状況が進むにつれて過大評価される。そしていずれファンダメンタルズが逆回転し始める(例えばウィルス感染が拡大から縮小になる)。

だから注意を向けなければならないのは何が実際に起っているのか、人々が何を信じていて何が資産価格に織り込まれているのか、そして状況の反転を示唆する指標である。

個人的には、このダリオ氏のコメントはコロナウィルスに関する市場の動きを1月から5月頃までピタリと言い当てていると考えている。今がどの段階かと言えば、特に欧米では過小評価されている段階である。月末の記事でこう書いたことを思い出してもらいたい。

個人的な感想で言えば、このウィルスのリスクは世界的にかなり過小評価されていると思われる。感染者がまだ少ないアメリカやヨーロッパでは特にそう感じる。上記の記事で述べたように感染のピークは恐らく4月前後であり、タイムフレーム的にはまだまだ序盤なのである。そして中国では患者数は何百人単位で増え続けている。ウィルス感染はねずみ算式に増えるからである。

そして今ではアメリカやヨーロッパでも感染が大きくなりつつあり、欧米人も問題の規模を認識し始めている。彼らと話しているとその変化を日々感じられる。

過去のウィルス感染との比較

さて、今後の展開を予想するためには過去のウィルスの感染拡大と比較することが必要だろう。筆者は以下の記事でSARSとの比較を行ったが、ダリオ氏も同様にこうした比較が必要だと考えたらしい。

ダリオ氏は様々な過去の事例と比較しているが、先ずは2003年のSARSと2009年の豚インフルエンザの時の市場の反応について述べている。

これら2つのケースはスペイン風邪などと比べると規模の小さいものだが、感染拡大がニュースになると市場はリスクオフで反応し、成長率の低下予想や資金逃避を反映して株価の下落、ゴールドや債券の価格上昇に繋がった(ここ数日の市場の反応と同じである)。しかしこうした反応は次第に弱まり、金融政策や経済活動などウィルス以外の要因が重要となっていった。

市場の反応は一時的なものだったということである。しかし一方でダリオ氏は2009年については2008年のリーマンショックからの回復の途上にあったことにも言及し、上げ相場が続いている現在の状況とは異なることも指摘している。

また、SARSについては世界の株式市場への影響が限定的であった一方で香港市場の下落はSARSの患者数と連動していたとし、「こうした動きは完全に論理的で、今回のウィルスが主に中国での感染に留まるならば今回もこうした動きになるとの予想が成り立つだろう」と述べている。つまり、中国市場や香港市場は下げ、アメリカやヨーロッパはそれほどでもないということだろう。

しかし今回の感染は中国本土だけのことに収まるだろうか。過去の例との大きな違いは、今や中国人観光客は裕福になり何処にでも観光に行くということである。SARSは日本では広まらなかったが、今回は日本にも感染が広まっている。それは当然である。2003年と現在の日本における中国人観光客の数を考えれば、日本の読者にも現在と当時の違いが分かりやすいだろう。

ダリオ氏の分析の概要は以上の通りだが、筆者は以下の記事で個別株のチャートを交えながら相場の動向を説明している。感染のピークの時期についての話もしているので、そちらも参考にしてほしい。