レイ・ダリオ氏の新著、米国債の暴落がどれだけ避けられないかを計算する

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)の英語版をついに出版した。

ダリオ氏はブログで内容を紹介しているが、今回は米国政府の債務の詳細について計算している箇所を紹介する。

アメリカは財政破綻する

日本語版はまだ出ていないが、この『なぜ国家は破綻するのか』という挑戦的なタイトルの本で、ダリオ氏は覇権国家アメリカの財政破綻を予想している。

これまでの記事では、覇権国家アメリカがインフレと金利上昇を通して財政破綻に至るまでの長い道のり(しかしあと5年か10年かもしれない)をダリオ氏が事細かに予想している箇所を紹介した。

長期シナリオについてはそちらを読んでもらいたいが、今回は米国政府の借金の現状についてダリオ氏が語っている部分を取り上げる。

アメリカの財政赤字

アメリカの債務危機とは言うが、アメリカの財政赤字は今どんな状況なのか。ダリオ氏は次のように述べている。

今年の米国政府の歳入はおよそ5兆ドルで、歳出はおよそ7兆ドル、よっておよそ2兆ドル予算が不足するということになる。

トランプ政権は少なくとも財政赤字が危機的状況だという意識は共有していて、財政赤字を半分以下にする目標を立て、イーロン・マスク氏のDOGE(政府効率化省)が政府支出の削減を行なってきた。

政権内で一番危機感を共有しているのは世界的なヘッジファンドマネージャーでもある財務長官のスコット・ベッセント氏で、マスク氏の支出削減が十分ではないと責めたこともある。

だがダリオ氏は次のように言っている。

支出を減らすことはほとんどできない。支出のほとんどはもう確定してしまっているものか、不可欠なものばかりだからだ。

現実としてはこれが正しい。結局、政府支出の大部分は年金である。だがトランプ政権も年金には手を付けないと言っている。他の支出を減らすことには意味はあるのだが、一番大きな支出に手を付けなければ根本的な解決にはならない。

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、最終的にはアメリカ人は年金を諦めると言っている。だがそれも大きな政治的代償を伴う。そして年金を削減された人々は支出を減らし、それはアメリカ経済を減速させることになる。

だからアメリカの財政赤字は解決できないか、解決できたとしても極めて厳しい政治的混乱や経済減速は避けられないのである。

米国債の利払い

更に、アメリカの債務問題には年金と同じか、それよりも深刻な問題が存在する。米国債の利払いである。

ダリオ氏は次のように述べている。

米国政府は長年借金を続けてきたので、債務は莫大な金額になっている。およそ30兆ドルで、毎年の歳入の約6倍だ。これは1世帯あたり23万ドル(訳注:およそ3,000万円)に相当する。

債務の利払いはおよそ1兆ドルで、歳入の約20%、今年の財政赤字のおよそ半分に相当する。財政赤字は、新たな借金で賄わなければならない。

厳密にはアメリカの債務は36兆ドルだが、ダリオ氏はおおまかな数字を使っている。

家庭あたり3,000万円の政府債務というのは、普通に返すとすれば米国政府は各家庭から3,000万円税金で取り上げなければならないということである。

それも深刻だが、アメリカ経済全体の先行きにとって更に申告なのは米国債の利払いであり、今や財政赤字の半分は借金の利払いで消えているのである。

しかも財政赤字は新たな国債発行で賄われ、新たな米国債はもちろん新たな利払いを発生させることになる。

政府債務は、金利がゼロだった頃には一見何の問題もないように見えた。いくら増えても利払いはゼロだからである。

だがインフレになり金利が上がると、利払いが借金を増やし、借金が利払いを生むという、借金がねずみ算式に増える構図が成立し、しかもインフレになっているので安易に紙幣印刷で借金を返すこともできない。

インフレ政策はインフレになった時点で終わるのである。だがダリオ氏いわく、問題は利払いだけではない。

元本償還

ダリオ氏は次のように続けている。

だが1兆ドルは国債の保有者に返さなければならないお金のすべてではない。借金の利払いに加えて、国債が満期になれば借金そのものも返さなければならないからだ。それはおよそ9兆ドルある。

上で述べたようにアメリカの借金の総額36兆ドルだから、米国債は全部で36兆ドル存在するということになる。

その25%が一気に満期を迎えようとしている。何故そんなに集中しているかと言えば、バイデン政権が自分の任期の間だけ短期的に金利上昇を避けるために、長期国債を避けて短期国債を大量発行したからである。

ダリオ氏は次のように続ける。

アメリカは国債の保有者が満期後も新たに国債を買ってくれるか、あるいは別の誰か裕福な人が国債を買ってくれるかすることを祈らなければならない。

アメリカは、発行されているすべての米国債の25%分の買い手を探さなければならない状況に追い込まれている。米国債の総額はアメリカのGDPを超えているので、その25%は途方もない金額である。

だがそれが出来なければ、債券市場の需要と供給の観点から米国債は大幅下落せざるを得ない。

米国債の買い手

だが実際には米国債の買い手は増えるどころか、世界中の国々が米国債の保有量を減らそうとしている。その代わりのものとしてゴールドが買われているために、金価格が急上昇しているのである。

米国債の保有者で、満期になると米国債を新たに買い直す人は一定数は居るだろう。だが満期になった国債の保有者の半分がまた米国債を買ってくれると計算しても、まだすべての米国債の10%以上の買い手を見つけなければならない状況は残る。

結局、中央銀行が紙幣印刷で米国債を買わなければならないのではないか。それがダリオ氏が予想しているシナリオである。

アメリカの繁栄に賭け続けてきたウォーレン・バフェット氏でさえ、ドルの未来を悲観している。

結論

このように、ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で予想しているアメリカの破綻シナリオは、米国債だけではなく、ドルやゴールドなど他の金融資産を始め、米国株を含むほとんどすべての金融市場に影響を及ぼすものである。

ちなみに米国株がどうなるかは、ダリオ氏は以下の記事で解説している。

残念ながら新著の日本語版はまだ出ておらず、いつ出るかも出るのかどうかもまだ分からないが、英語で読める人は英語で読んでおくべきだろう。今後10年、20年の世界経済を予想する上で必読の本である。


How Countries Go Broke