引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画である。
今回は株価の見通しについて語っている部分を取り上げたい。
ドル資産からの資金逃避
ガンドラック氏はこれまでの記事で、米国債とドルにネガティブな見方を示した一方で、ゴールドに強気な予想をしていた。
その理由は、ドル建て資産からの資金逃避である。コロナ後の金利上昇で財政赤字の半分が米国債の利払いとなっていること、ウクライナ戦争後のドルを使った経済制裁で、中東諸国やBRICS諸国がドル資産から逃避していることがドルと米国債から投資家を流出させている。
そしてその代わりに資金が流入しているのがゴールドである。
2025年の株式市場
そしてドル資産からの資金流出というガンドラック氏のシナリオは、米国株にも適用される。ガンドラック氏は次のように述べている。
今年一番のトレードは、米国株を避けて他の国の株式を保有することだ。そしてそれはこれまで機能している。
多くの人は、今年の株式市場は4月に下がってから反発し、株価はあまり変わっていないと思っているのではないか。しかしそれは米国株や日本株だけ見ているからである。
まず米国株の株価チャートは次のようになっている。

だが、知っている読者もいるだろうが、それは米国株と日本株だけの話なのである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
わたしのお気に入りは欧州株だが、明らかにS&P 500よりもパフォーマンスが良い。
例えばドイツ株は次のように年始から大きく上がっている。

実は、今年の株式市場が不調だということなのではなく、単に米国株と日本株が他の国に比べて特別悪いだけなのである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
S&P 500の今年のパフォーマンスが悪いわけではない。年始から少し上がっている。だが他の国の株式市場はもっと上がっている。
米国株より好調な新興国市場
ヨーロッパだけが特別調子が良いというわけでもない。ガンドラック氏は次のように続けている。
新興国の株式でさえもS&P 500を上回っている。
例えば香港株のチャートは次のようになっている。

ちなみに中国本土よりも海外投資家の多い香港株のパフォーマンスの方が良いのだが、そこからも本来米国株に行くべき資産がこういう場所に流れてきているというのが分かる。
米国株はドル安で二重の損失へ
何故こうなっているのか。米国株は世界最強ではなかったのか。現在、米国株と日本株がこうなっている理由は、アメリカや日本は金利上昇で財政が危うくなっている国だからである。
米国株や日本株以外なら何でも良いというわけではない。例えばヨーロッパにも財政が危うい国がいくつもある。だがドイツは他の先進国に比べると財政状況が比較的良い。
結局、政府債務の多い国で金利上昇が起こると、財政赤字の大半を国債の利払いが占めるような状況に陥り、これまでのようなばら撒きができなくなる。それがその国の株価を頭打ちにしているのである。
だから単に日本人にとって身近な日本株や米国株を選ぶのではなく、各国の財政状況を見た上で投資に一番良い国を選ぶべきなのである。
また、この話で更に重要なのは、財政赤字が原因で株価が低迷する国では、通貨もまた低迷するということである。
ガンドラック氏は次のように指摘している。
米国株が強かった時代は明らかに終わっているように見える。米国株のパフォーマンスを他の国と比べてみれば分かる。
ドルで生活している投資家にはこれはもっと大きな差を生む。米国以外の株式を現地の通貨で買い、ドルがその通貨に対して下落し、その上で外国株のパフォーマンスが米国株を上回れば、アメリカの投資家は二重で勝てる。
アメリカ人であるガンドラック氏はこのように述べているが、アメリカ国外の投資家にとっては、これは米国株を為替ヘッジなしで保有すれば株価とドルの両方の下落でダメージを負うということを意味する。
結論
株価の短期的な動向を予想することはそれほど簡単なことではないが、長期的な動向を予想することは簡単である。
それは主に金利と政府支出で決まる。そして、少なくとも日本やアメリカでは、金利はこれまでのような一方的な低下は望めず、国債の利払いで政府によるばら撒きも不可能となっている。
だから米国株や日本株の長期的な動向は事前に分かっている。
これこそが、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で説明している、債務過多となった先進国が現金給付によってインフレを引き起こした後の金融市場の当然の推移なのである。
ダリオ氏によれば、大国はこのように衰退してゆく。まさに今はそのプロセスだと言える。ダリオ氏の新著は日本語版が出ていないが、英語が読める人は原文で読むことをお勧めする。日本やアメリカがこれからどうなるかが書いてある。

How Countries Go Broke