アメリカの財務長官であり、ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementを運用していたヘッジファンドマネージャーでもあるスコット・ベッセント氏が、Bloombergのインタビューで日本のインフレと日銀の金融政策について語っているので紹介したい。
アメリカの長期金利
今年に入ってから米国債が世界の投資家の注目の的となっている。コロナ後の金利上昇で米国債に多額の利払いが発生し、アメリカの財政赤字の半分を占めるようになっているからである。
赤字は米国債の新規発行で賄われるので、米国債の大量発行は避けられない一方で、買い手が増えるとは想定しがたいため、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏などは米国債が下落を避けられる可能性は5%だと予想している。
実際、今年4月には米国株とドルと米国債がすべて同時に急落する危うい場面もあった。
だからベッセント氏は司会者から米国債は大丈夫なのかと聞かれている。ベッセント氏は不安を払拭するように次のように答えている。
10年物米国債は、世界で数少ない今年金利が下がっている10年物国債だ。
それは財務省とFed(連邦準備制度)が市場から信用を得ているためであり、インフレ期待がしっかりと抑えられている証拠だ。
10年物米国債の金利は次のように推移している。

確かに、アメリカの長期金利は現状比較的安定して推移している。4月の危うい場面もベッセント氏がトランプ大統領に関税の延期を提言して何とか収束した。
ベッセント氏は、市場で金利が安定しているから米国債はこれからも大丈夫だと言う。しかし「市場は常に間違っている」という言葉で知られるソロスファンドを運用し、市場の動向を先読みすることを仕事としていたベッセント氏が、市場の意見を根拠とするのはやや不思議な感じがする。
市場は正しいのだろうか。一方でダリオ氏は、市場は米国債の大量発行の問題をまだ織り込んでおらず、バブル崩壊前の相場とはいつもそういうものだというコメントを残している。
日本のインフレ問題
どちらが正しいだろうか。ベッセント氏は、米国債にとってのリスクはむしろ外国で金利が上がることだと言って、日本のインフレ問題に言及している。
ベッセント氏は次のように言っている。
だが諸外国の影響を受ける可能性はある。
日本はインフレの問題に直面している。植田総裁と話したが、彼の意見とは異なるわたしの意見として、こう伝えた。
日銀は出遅れている。日銀は遠からず利上げによってインフレを制御しなければならなくなる。
ほとんどの日本人が気にしていないが、日本国債の金利が上がり続けている。
まだ量的緩和を続けているため、10年物国債はかなりの程度抑えられているが、その10年物国債の金利さえもう数年上がり続けている。

ベッセント氏が出遅れているというのは、いまだに量的緩和に抑えられたこの10年物の1.57%という金利も含まれているだろう。
量的緩和の影響がより少ない30年物は金利が3%を超えている。そして日本のインフレ率は3.3%である。
結論
筆者は米国債の状況が大丈夫だとは思わないのだが、日本の方がまずいというベッセント氏の指摘はそうかもしれない。
インフレ率が3.3%まで上がっているにもかかわらず、10年物金利は1.57%、政策金利はいまだに0.5%である。そして多くの日本人も日本の株式市場も利上げなど意に介していない。
だからベッセント氏は政策金利が出遅れている(つまりここから上がらなければならない)と言っているのである。
ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)はアメリカの財政破綻予想がテーマとなっているが、そこにはアベノミクス以後の日本円の暴落が1章まるまる割かれて紹介されており、新著の内容を要約すれば「アメリカも債務問題を軽視すれば日本のように通貨を犠牲にすることになる」である。
ダリオ氏の新著の日本語版は出ていないが、英語が読める人は原著を読むことをお薦めしたい。

How Countries Go Broke