アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、Fed(連邦準備制度)の利下げとそれに対するスコット・ベッセント現財務長官のコメントについて語っている。
サマーズ氏 vs ベッセント氏
サマーズ氏とベッセント氏は、アメリカの歴代財務長官の中でもっとも経済に精通している2人だろう。歴代財務長官の中で、彼らだけが経済の未来を予想できる能力を持っている。
しかしその2人の意見が割れている。ベッセント財務長官は同じくBloombergのインタビューで、インフレ率が2%まで下がっている中でパウエル議長が政策金利を4.25%に維持しているのは不当だとして、Fedに対して大幅な利下げを要求した。
だがサマーズ氏はこれに異を唱えている。サマーズ氏は次のように言っている。
金融政策に関するどんな方針も、中立金利がどの水準か、インフレ期待がどうなっているかに関する判断に基づいていなければならない。
中立金利とは実体経済にとってプラスにもマイナスにもならない中立の金利水準のことであり、これが今どうなっているのかを考えなければ金融政策は決められないというわけである。
そもそもインフレ率がこうだから政策金利も同じであるべきだという議論が稚拙であるというわけだ。それはそうである。
金利は高いのがニューノーマル
では中立金利はどうなっているのか。サマーズ氏は次のように述べている。
財政支出が大幅に増加し、データセンターへの投資が大幅に増加し、貿易赤字が減少し、上昇する資産価格が預金から資金を奪っていることを考えれば、これらのことが資金の需要を高めた結果、中立金利は大きく上がっていると考えるべきだろう。
サマーズ氏は要するに、政策金利がインフレ率よりも高い今の状態がコロナ後の普通なのだということを言っているのである。
多くの人々は気づいていないが、アメリカ経済はどんどん悪化している。財政赤字は増えていて、アメリカ経済に注入される政府の資金の量は増えているが、経済成長率は昔よりもむしろ下がっている。
そして財政赤字が増えているということは米国債の発行量が増えているということであり、それは需要と供給の関係から米国債の価格には下落圧力になり、国債は価格が下落すると金利が上昇する。
よって同じだけの金融緩和をしても今は昔よりも金利が上がっていて当然だというわけである。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が警鐘を鳴らし続けている米国債の需給問題である。
結論
だからサマーズ氏は次のように言っている。
それらのことを考慮すれば、景気後退でもない限り、1.75%もの利下げを推奨するのは妥当ではないだろう。
巨額の財政赤字、関税のインフレ圧力、Fedに関する政治的な駆け引きを考慮すれば、大幅な利下げが織り込まれることは好ましくない。インフレ期待が上がり始めるリスクがあるからだ。
今で既に政策金利が中立状態にあるのであれば、これ以上緩和をするとインフレになってしまうからだ。
ちなみに米国債の大量発行の問題は結局どうなるのか。ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で米国債の結末について予想を書いているが、ダリオ氏の序文によればサマーズ氏もダリオ氏の新著に助言を与えている。
そしてサマーズ氏もダリオ氏と同じように、緩和を続けるために何かが犠牲になるのではないかと恐れている。
ダリオ氏の新著は日本語版が出ていないが、英語が読める人は原著で読んでみてほしい。アメリカ経済の未来が書いてある。