ラリー・サマーズ氏: インフレリスクは本物、利上げで景気後退へ

経済学者で米国の元財務長官のラリー・サマーズ氏が久々のブログ更新でアメリカの物価高騰について語っている。大変興味深いので紹介したい。

コロナによる新たなリスク

サマーズ氏は先ずアメリカ経済がコロナ不況から回復し好調であることを素直に喜んでいる。

この数週間でGDPは新たな高値を付け、今年中にコロナ前のトレンドラインを上回りそうだ。経済は数十年来の高成長を享受している。

事実、アメリカ経済は未曾有の景気後退からV字回復を果たした。

それは莫大な現金給付によって達成された景気回復だった。一方でその副作用がアメリカ経済の新たな問題となっている。サマーズ氏は次のように続ける。

しかし新たな状況が新たな対処を必要としている。今やアメリカ経済の主要な懸念は加熱、そしてインフレだ。

中央銀行が債券を買い入れ、2024年までのゼロ金利を約束し、およそ3兆ドルの財政刺激が議会を通過し、株式市場と不動産価格が高騰した結果、コロナ禍において山のように積み上げられた2兆ドル以上のアメリカ人の貯金がインフレ圧力を生んでいる。

インフレはもう長らく筆者を含むグローバルマクロの投資たちが警鐘を鳴らしてきたテーマである。

優れた投資家はインフレが統計データに現れる前にそれを予想する。優れた経済学者であるサマーズ氏はそれがデータにはっきりと表れるとそれを認識して警鐘を鳴らす。

しかしインフレが数字としてはっきりと表れてもそれを認識しない人々がいる。政治家と官僚である。Fed(連邦準備制度)は「一時的なもの」でありリスクはないといまだ主張し続けている。

この中央銀行の態度について彼らよりも経済に詳しいサマーズ氏はこう語っている。(パウエル議長はPEファンドの人間でマクロ経済の完全な門外漢であり、サマーズ氏はマクロ経済学の第一人者である。)

Fedとバイデン政権の高官達が、先月の中古車価格の上昇などインフレの一部について一時的だと主張するのはまったく正しい。しかし現在表れているデータのすべてが一時的であるということはありそうもない。

様々な要素がインフレが更に加速すると示唆している。需要の伸びが供給の伸びを上回りそうであること、上昇する原材料費と減少する在庫、公式の物価統計にまだ全然反映されていない住宅価格の高騰、そしてインフレ期待が消費者の購買行動に及ぼす影響などが物価に上昇圧力を加えている。

住宅価格の高騰がCPI(消費者物価指数)に反映されていないことはジェフリー・ガンドラック氏も指摘していた。

サマーズ氏は相場予想のプロフェッショナルたちと話が合うほとんど唯一の経済学者である。そしてそのサマーズ氏は現在の金融市場についてこう語っている。

Fedが利上げによって経済を傷めずにインフレ圧力を抑えることはあり得たかもしれない。しかし世界の金融市場が将来の超低金利を前提としてここまで上がってきた現状において、それは非常に困難である。Fedはインフレが持続的であると確認されるまで行動しないと約束してしまっている。

歴史の教訓はあまり明るい未来を指していない。Fedが経済活動を緩めるために急ブレーキを踏む時は常に、経済は景気後退に陥ってきた。

そしてその景気後退は利上げによる株価の下落から始まるのである。インフレだけでは株価は落ちないが、インフレが金融引き締めの引き金を引く時、株価は下落し経済は沈んでゆく。前回の記事でも説明している。

結論

サマーズ氏の考察は市場の動きを完全に考慮に入れている。これが他の経済学者に出来ないことである。他の経済学者たちは相場の動きを考慮に入れることをほとんど完全に忘れている。しかし相場が経済の重要な一部である以上、相場を予想せずに経済を予想することは出来ない。だから大半の経済学者の経済予想は役に立たないのである。

相場のプロが経済学者の意見を重視することは珍しいのだが、サマーズ氏の論文には相場の第一線で活躍するファンドマネージャーらも一目置いている。個人の政治的感情からどんな状況であれマントラのように財政出動を唱え続けるポール・クルーグマン氏のような偽物とは違うのである。